第1回では缶コーヒー「BOSS」が発売される以前の缶コーヒー市場、サントリーがBOSSを発売するに至る経緯をまとめました。
今回は、BOSSのブランド戦略、コミュニケーション戦略の2点についてまとめていきたいと思います。
BOSSは缶コーヒーのヘビーユーザーにターゲット絞っています。ターゲットの人生観を反映させるコンセプトを掲げ、「味」「ネーミング」「パッケージ」いずれもヘビーユーザーに支持されるブランドを創るに至りました。
当時BOSSがターゲットにしていたのは、外回りの営業マン、ドライバー、現場作業員などのガテン系の人たちでした。
「身体を動かし働くブルーカラーの方をターゲットに絞った当初、ドライバーをする方や職人さんにインタビュー調査を行いました。そこで、こういった職業の方の多くが家を出てから帰宅するまで一人でいることが見えてきました」(柳井さん)
そこに「孤独」と「自由」を見出したことで、「相棒」というブランドコンセプトが固まったのだとか。
BOSSが発売された1992年当時はまだバブル景気を謳歌している時代。しかしその後は1997年に山一証券が自主廃業、同年、北海道拓殖銀行が破綻するなど、景気後退の足音とともに人々が熱狂から覚めて、急速に気持ちが現実に引き戻される時代に突入しました。
バブル期には、後に「箱物行政」と批判されたように都市部だけでなく地方においても様々な建造物が乱立、その当時は建設現場で働く方々はそれは忙しく働いていたことでしょう。なかには、家族と離れて住み込みで働きに出た人も多く、そういった背景のなかターゲットインサイトの中に「孤独」という点を見出したのはやはり慧眼であるといえる。いつまでたっても日の目をみない俺たちという風に思っていたかもしれません。
ヘビーユーザーの気持ちを反映させた表現開発と、行動に則したメディアプランニングを組み合わせて、統合的なコミュニケーションを展開。BOSSのカラー=「紺」という色による商品アイデンティティの印象付けもコミュニケーション全体に統一性をもたらす大きな貢献をしたといえる。
イメージキャラクターには、ターゲットであるドライバーや建設現場で働く方々などの層の方々にカリスマ的人気を誇るロック界の大物「矢沢永吉」を起用。TVCMを中心としたマス媒体による大量出稿のほか、自販機、ロードサイドボードといったターゲットと接触確立が高い媒体を押さえることで効果的に広告訴求を行いました。
BOSSのキャンペーンを語るうえで外せないキャンペーンが「ボスジャン」キャンペーンです。発売2年目の1993年のことだ。
こうした購入者に対するプレゼントキャンペーンはそれ以後各社が打ち出して定番化していくのですが、ブランドに対するロイヤリティを高める戦略として大きく貢献しました。
BOSSが実施したのは缶に貼られた5枚のシールを集めて応募するという今となっては定番キャンペーンですが、当時としては革新的なキャンペーン手法でした(我々はこうした先人たちの積み重ねのもとに仕事をしていると思うと、広告キャンペーンの過去を振り返るのはとても意味があることに思いますね)
大規模なメディア出稿と連動した話題性のあるキャンペーンだっただけに応募が殺到したようですが、その応募数たるや約1,000万通にも及んだというのだから驚きである。その後も「ボス特製革ジャンキャンペーン(1994年)」「フサフサジャンキャンペーン(1995年)」と継続して実施される人気キャンペーンに成長しました。後に25周年の時には初代ボスジャンを探していますという一風変わったキャンペーンも展開されるなど、超ロングセラーブランドです。
こうして今見ると古いな、、、という感じではありますが、これも当時としては画期的なキャンペーンでした。コンセプトとしては「働く男の相棒として電話もありじゃない?」的なノリで採用されたものらしい。
ここで少し競合他社の動向についても触れておこう。
泣く子も黙る日本コカ・コーラ社が発売していた商品といえば缶コーヒー「ジョージア」。1995年に展開したキャンペーンが「ジョージア”やすらぎパーカー”プレゼント」だった。CMに起用されたのは飯島直子さん。応募総数は約3,400万通にも及んだといわれており、当時はボスジャンを超える人気であった。しかしながら、それもこれも先にボスジャンキャンペーンがあったことがその土壌になっていたことは言うまでもない。
缶コーヒーのヘビーユーザーの人生観を反映した働く男の人情味溢れた姿を、ロック界の大物である矢沢永吉が演じました。BOSSの世界観の確固たるイメージはこの時に伝達され醸成された。
BOSS「バス篇」
他にも「空港篇」「試験篇」など様々なバージョンが制作されたが、内容を観て頂ければ分かるように品質訴求はほとんど行っていない。営業マンに扮する矢沢永吉が、缶コーヒーを飲んでホッとした瞬間を「まいったな」というセリフとともにサラリーマンの悲哀を表現している。エリートではなく、苦労人のヒーローとして、ターゲットとなるヘビーユーザーに大きな共感をよんだ。
「まいったな」だけで世界観を表現できてしまうという、コピーライティングって奥が深いですよね。当初「WEST」発売時に行っていたのとは真逆のキャンペーンになったという訳です。実施したサントリー、提案した広告会社、いずれもすごい。
後々、サラリーマン川柳など働く男の悲哀を表現する場というのは多く出てくるのだが、全ての始まりはサントリーのBOSSにあったといえる。
・そこで、ボス。
(冗談じゃねぇよ、の捨てセリフが格好いい)
・もうひとりのボス(BOSS「プラスワン」)
大げさかもしれないがBOSSから始まったことというのは沢山ある。キャンペーン手法だってそうだし、品質ではなくブランド訴求することだって、何より25年も続くキャンペーンがあるというのが信じられない。
私が子供のころに見ていたのが矢沢永吉のBOSSのCMで、十数年たって私が広告会社に就職して尚それが続いていることの感慨(タレントは変わったけど)。
いま、「広告いらねー」「アドブロック最高」「パケット無駄にする動画見せんな」と広告に対する風当たりが強すぎる現代ですが、こんなにも面白いCMが昔からあったというのは、素晴らしいことだと思う。
広告は芸術ではないけど文化ではある。
瞬間的にバズる打ち上げ花火的な広告もいいんだけど、あとあと観返して「何かグッとくる」そんなCMとか作りたいなと思う。