明日2019年10月14日はノーベル経済学賞の発表日である。例年と同じならば、日本時間の20時にスウェーデンでその記者会見が開かれるはずだ。
世の中にはいろんな仕事があって、僕は今年もその受賞者を予想する仕事をしている。17年のセイラーをツイッターで当てたら、18年には某所から予想の依頼が来て、それを(見事に)当てたら19年にもお呼びがかかったのだ。「そんなことしてないでお前がノーベル賞を取れるよう頑張れ」とのご意見は、ここではスルーさせてもらうことにする。
結論からいうと、今年はLabor Economics(労働経済学)ではないかと思う。人でいうと、Card, Angrist, and Masnkiの3人。いちおう、ノーベル賞予測の相場として、この中の一人でも当たっていたら「当たり」として扱うのが伝統である。
Labor Economicsだと考える大まかな理由を以下に書き留めておきたい。
まず昨年はマクロだったので、今年はマクロはない。僕が調べたかぎり、2年連続で同じ分野に授賞があったことはない。また、僕はミクロ経済学者だが、ミクロは10年代には目ぼしい人に出しすぎていて(出すべき人に早く出せているともいえる)、ちょっと人材が払底しているように思う。
エコノメ(計量経済学)は、選考委員にプロパーの計量経済学者がいないので、エコノメ単体ではあげられないと思う。あげるためには選考委員はScientific Backgroundという長いサーヴェイ論文を書かねばならないが、誰もエコノメ単体では書けないと思うのだ。だから応用した人とのセットでないと、エコノメの理論を作った計量経済学者はもらえないと思う(過去例もそんな感じである)。
当たり前のことだが、いかなる賞であっても、選考委員が評価した人が、賞を受けるのだ。ノーベル賞の選考委員はスウェーデン人である(リストはウェブ上で公表されている)。ノーベル賞を与えるのは名誉な仕事だろうが、選考はかなりしんどい作業だと思う。人口約1000万人の国で、ノーベル賞を選べるような経済学者を7人(選考委員会の正メンバー数)用意するだけでも大変だと思う。だから実は選考委員は毎年そんなに変わっていない。たぶん毎年、7人のうち2人くらいしか入れ替わってないはずだ。
僕が見るかぎり、新メンバーが選考に影響するケースがわりと多いように思う。たぶん旧メンバーは、新メンバーを育成したり、やる気を持たせたり、頼ったりしたいのではないかと思う。そのような内部情報は全くないのだが、僕がScientific Backgroundを読むかぎり、そうした印象を受ける。
今年の選考委員には一人、労働経済学者が正メンバーに加わった(正ではないadjunctというのもあって少しややこしい)。そしてLabor Economicsは、さすがに、そろそろあげたい分野ではないだろうか。いまの選考委員は応用分野の色が強いので、相性が良いとも思う。だからこの分野のえらい人として、CardとAngristをあげたわけだ。そして、これに絡みのよい計量経済学者として、Manskiをくっつけてみた。ただし僕は労働経済学者ではないので、この3人をくっつけるセンスがどんなものなのかはよく分からない。また、この3人が選ばれるということは、Imbensが選に漏れるということを含んでもいる。
エコノメをやってる人の中には「Manskiは単独でもらうべき」と思ってる人もいるだろう。でも僕は計量経済学者を欠いたいまの選考委員会には、それは無理だろう(≒Scientific Backgroundを書けない)と思う。本人たちにもその自覚はあるだろうから、ここでManskiをくっつけたいのではないかと思う。
以上、完全に推測である。仮説に仮説を重ねて書いているし、勝手な思い込みによる記述も含まれているだろう。
もちろん僕は予測が当たると嬉しい。だが正直、受賞者を当てるのは難しいので、当てられなくてもそんなには残念がらないと思う。ただ、自分の仮説の立て方を揺るがすような受賞者だったら、僕はショックを受けるだろう。そのとき自分に仮説を修正する意欲が残っているかどうか、今のところは定かでない。