自家用車と社用車を兼務で自己負担させられる環境にいるワイン氏。
貧乏から更にど貧乏への階段を降り始めた。
そして大川係長の鋭い観察から香織先輩の不調の原因を探る中、香織先輩の浮かない顔が目に入る。
そんな香織先輩を気にしながらワイン氏は納車に向かう・・・
当時の生活を思い出してみた。
確か月々3万円くらいのローンに家賃6万、光熱費、自動車保険、毎日の食費など含めると全く自由なお金がなかった。
今思い出しただけでもツライ・・
会社は新入社員の給料が分かっているのに買わせているこの実態はどうにかしないと働き手はどんどんいなくなると思う。
私は朝の納車を済ませ、帰社した。
そして午前中ショールームで浮かない顔をしていた香織先輩がいた。
一体何があったのかは本人に直接聞く事はできない。
やはりここは情報通の事務の佐々木さんに聞くべきだろう。
佐々木さんは香織先輩と仲良さげにしている風を装った女性の方だ。
本当は香織先輩が大っ嫌いらしく、店の裏でタバコを吸いながら「あの雌豚が!」と漏らしているのをたまに見かけていた。実は本物のヤンキーでお父様もたまにお店にくるので知っているが・・見た目は怖い。佐々木さんが香織先輩に笑顔で接しているが目が笑っていないのが恐ろしく怖い。西野先輩でも怖くてそう簡単には悪戯出来ない人物だ。でもめちゃくちゃ美人。今もきっと美人なんだろうなと思う。
そんな佐々木さんに事の経緯などを聞きいた。
自分「佐々木さん!香織先輩何かあったんですか?」
佐々木「あ〜。なんかこの前契約したお客さんから接客態度の事とかでクレームあったみたい。」
自分「え!!そうなんですか?あ〜これは落ち込みますね。」
佐々木「自業自得じゃない。私の友達で香織さんに紹介して買ってくれた子も言ってたけど、安くなければあの態度では買わなかった。ってさ。」
自分「え!!!そんな事言われてるんですか?あちゃ〜何も言えないわ。」
佐々木「まあ、この店舗にいる人間でフォローするの土居課長くらいでしょうね」
自分「そこは否めない。」
香織先輩はその傲慢な態度はお客様に見透かされていた。
これは本人も物凄くショックだっただろうと思う。車の故障や音なり、不具合によるクレームではなく、本人の態度を指摘された事だからだ。
香織先輩は何故かあまりにもショックだったのか拗ねてその日は午後から早退した。
え?打たれ弱( ゚д゚)
2006年のこの頃はアメリカでサブプライムローンの焦付きが問題になり始め、これによってかよらずか昨年に比べて台数が会社全体的に伸びていなかった。
また、来年から1台あたりの報酬であるインセンティブが減らされるという改定があった。理由として世界的に景気が落ち込み始め、2006年の自動車販売は全体で1.9%減で終わっていたからだ。
これはリーマンショックへ向けた始まりに過ぎなかった。
しかし、この当時の私はそんな事が起きてるなど全く分かっておらず、なんか景気悪いな〜程度にしか理解していなかった。しかし他の先輩方も理解度は私と変わらず、何か対策する訳でもなく何となく日々を過ごして行った。
2007年になり更にこのサブプライムローン問題が表面化して行った。
業界2位のモーゲージバンクが2月に破綻。その後7月にS&Pやムーディーズがサブプライム関連商品を格下げ、翌月の8月にはヨーロッパの金融機関の損失やファンドが取引停止などが相次ぐ。
アメリカでも12月にブッシュ大統領が5年間金利を凍結する発表をし救済処置をした。
そう、経済が歯車が狂い始めたのだ。
私達カーディーラーももちろんその影響で車が売れなくなった。閑古鳥が泣いている土日が増えていく。
そして2007年から1台あたりのインセンティブが減らされた。
改定前:全車種1台 1万円
改定後:車種により 3千円〜1万円
改定前は軽自動車を売っても1万円だったのだが、これが3千円になったのだ。
この改定で年収もほとんどの営業マンが減額になった。
更に今までは台数至上主義であった販社とメーカーだが、ここに来て台数ではなく、1台あたりの利益を取る事を重視する方針になり、評価に利益率のが組み込まれる事になったのだ。
もう今までのストーリーを読んで頂いた方はお分かりだろう。
そう、今まで安売りで台数を稼いで来た人間が苦しみ始める番だ。
話は変わるが2007年、私は結婚をし妻のお腹には新しい命も授かっていた。
精神的にも守るものが出来、仕事へより邁進する様になった。
これから生まれる子供の為にも稼ぐ事を意識し始める。しかし売れない。
お客が来ない。
反響営業がメインになっていた時代。反響営業は店頭でお客様が来るのをひたすら待ち、商談した後や説明した後にその後を追いかけるスタイルの営業だ。
もちろん私も反響営業はしていたが、日々の納車や引き取りの合間にお客様の近隣へは必ずポスティングや飛び込み訪問を続けていた。
その努力がこの2007年に花開く時が来るとはこの時想像すらしていなかった。
あとがき
2006年から2007年に渡り、世界経済は不況へ進んでいた。
そんな中ワイン氏も例外ではなく車は売れない。
しかし、結婚もし、子供を授かったワイン氏は思いがけない車の売れ方をすることになる・・・
第10章へ続く