外国語、あるいは外来語の単語の切れ目が分からないっていうことありませんか?
例えばサンフランシスコという地名がありますが、私は子供のころサンフラン・シスコだと思ってました。だってシスコって略すじゃないですか。
ところが後に英語の切れ目はサン・フランシスコと知ってびっくりしました。聖フランシスコという聖人の名前から来ていて、セイントではなくサンなのはフランス語由来なのだからだそうです。
同じく子供のころの話ですが、母がある日スーパーから帰ってきて「このおイモはおいしいよ。メークイーンだから」と言ったのをよく覚えています。私は「メイク委員」と聞き間違えたわけでもないのですが、でも、切れ目はメーク・イーンだと思っていました。
中学に入ってから、ある日突然「そうか、あれは May Queen だったんだ」と気づきました。母の発音が「メイクイーン」だったらもっと早く気づいたかもしれません。「メー」から May にたどり着くまでには随分長い時間がかかりました(笑) ちなみに今はクイーンと延ばさずにメークインと書くほうが一般的なようですが。
私たちはどうも長い単語を前後均等に切ろうとする傾向があるように思います。
例えば6文字なら3+3、7文字なら3+4か4+3に分割して考えがちで、なかなか2+4(5)や4(5)+2という分け方には思い至らないのです。
メークイーンをメーク・イーンだと思ったのはまさにそういうことだったのだと思います。サンフランシスコは均等に分けるとサンフラ・ンシスコとなって後半がンで始まってしまうので、勝手に1つずらしてサンフラン・シスコだと考えたのではないでしょうか。
クアラルンプールも似たような例で4+4には分解できないので、てっきりクアラルン・プールだと思っていたのですが、なんとこちらはクアラ・ルンプールでした。
同様に、プエルトリコも当然3+3でプエル・トリコだと思っていました。でも、これはプエルト・リコなんですよね。
スペイン語でプエルトは「港」、リコは「きれいな」です。プエルトは o で終わる男性名詞なので、そこに係る形容詞も o で終わってリコになります。これが a で終わる女性名詞に係る場合はリカになるので、プエルトの代わりに「海岸」という意味の女性名詞コスタを持ってくるとコスタ・リカになるというわけです。
フランスの国旗をトリコロールと呼んでいますが、私はこれも長年トリコ・ロールだと思ってました。ところが切れ目としてはトリ・コロールで、トリは tri、コロールは colore(=英語の color)だったんです。なーんだ、それで青白赤の3色旗をそう呼んでいたのかと合点が行きました。
英仏くらいならこういう風に自力で謎が解けることも珍しくないのですが、全く知らない外国語の場合はなかなか難しいです。クアラ・ルンプールもそうですが、ロシア語の例をもうひとつ。
それはペレストロイカ。若い人はご存じないかもしれませんが、1980年代に当時のソ連で進められた政治体制の改革運動です。
そう、ご多分に洩れず、これも3+4に分解してペレス・トロイカだと思いがちなんですよね。だって、♪走れトロイカ~なんてロシア民謡もあるじゃないですか(でも、いくらロシアとは言え、なんで改革がソリと関係あるんだろ、とは思ってましたが…)。
ところが、これ、ペレ・ストロイカなんですってね。
英語に訳せばペレは接頭語 re-、ストロイカは structure、つまり restructure、リストラだったんです!
なんでもちょうど真ん中あたりで分けようとするのは間違っているということです。
そう言えば、日本語でも四字熟語は2+2という構造になっていることが多いですが、必ずしもそうではありませんよね。例えば「骨粗鬆症」とかね。
四字熟語は通常「本末転倒」なら「本末が転倒している」、「容姿端麗」なら「容姿が淡麗である」などと主語+述語の組合せが多く、2+2になっています。「財産分与」みたいな目的語+動詞の2+2もあります。
あるいは「朝令暮改」とか「夏炉冬扇」みたいな対句形式の2+2もあります。
でも、パタンはいろいろありますが、大体は2+2なのです。ところがこれに慣れてしまうと、時々落とし穴に陥ってしまいます。
例えば「愛別離苦」。これは4=2+2の法則に当てはまる「愛別」+「離苦」ではないのです。「愛別離苦」とは「愛する者と別離する苦しみ」であり、構造としては[{愛(別離)}苦]、つまり4=(1+2)+1なのです。
「骨粗鬆症」も「骨粗」が「鬆症」なのではなくて、「骨」が「粗鬆」な「症状」です。4=1+2+1なのです。「粗鬆」は「あらい」という意味の漢字が2つ連なった語で、要するにスカスカという意味です。というわけで、これは「こっそ・しょうしょう」ではなく「こつ・そしょうしょう」と読まなければなりません。
あと「高尾山口」(笑)
東京に出てきてからしばらく私はこれを「たかお・やまぐち」と読んでいました。でも、これは白金高輪とか岐阜羽島とか大和郡山みたいな2+2ではなくて、「高尾山(たかおさん)」という山の入り口なんですよね。
構造としては[{(高尾)山}口]、つまり4=3+1で、だから読みは「たかおさんぐち」なんです。
同じように、関西の例でいえば「東岸和田」は「とうがんわだ」ではありません。岸和田(きしわだ)の東にある「ひがしきしわだ」です。4=1+3です。
ま、地名の場合はそんなに間違えないのですが、まだ歴史の浅い「西東京市」は、いまだについつい「西東」をひとまとまりに読んでしまって詰まってしまうことがあります。
これ何故なんでしょうかね? 他にも女優の仲里依紗を「なかざと・いさ」と読んじゃったり…。
日本人はどうして4=2+2を安定的な構造と感じるのか──それが解明できればノーベル賞ものかもしれません(ちなみに「ノーベル賞」は「ノーベ・ルショウ」ではありません)。