何かのきっかけでふと気なり始めることがあります。また、ある日突然、自分の誤りにはたと気づくこともあります。
ウチの会社の東京支社の(正確には東京支社が入っているビルの)エレベータに乗ると、ドアが閉まる時に英語のアナウンスが入ります。
Doors are closing.
他のビルのエレベータでも同じアナウンスを聞いた記憶があります(同じメーカーのエレベータだったから何の不思議もないことなんですが)。
で、私はふと気になり始めたのです。
何で door が複数形なんだ?
今この瞬間、ドアが閉まり始めているのは私が乗っているこのエレベータ1台だけです。それを複数形にしてしまうと、まるで何台かのエレベータのドアが一斉に閉まるイメージじゃないですか。
これはおかしいのではないでしょうか? 日本人が書いて、ネイティヴ・チェックを受けないまま録音してしまったのでしょうか?
外国からの訪問者に気を遣っているつもりかも知れないけど、こういうことがあると、むやみに英語の表記やアナウンスを入れるべきじゃない気もします。その日はそんなことを鬱々と考えながらエレベータを降りたのですが、ある日の夜、入浴中にはたと気づいたのです。
私が乗っていたエレベータは左右からドアが閉じるタイプ、つまり、1台のエレベータにつきドアが2枚ずつあったはずだ! だから閉まりかけているのは1台だけであっても、閉じようとしているのは a door でも the door でもなく doors なのです!
こういうのって複数形のない日本語で育ってきた人間には却々しんどいものがありますよね。頭で考えてからでないと言葉にできないんですよね。
そう言えば英語を習い始めたとき、最初の驚きは複数形であったような気もします。
英語を習う前から「靴」は「シューズ」と知っていたのですが、それが shoe の複数形であると知って驚いた記憶があります。右と左で複数とはなんとも欧米的な発想だ、と小学生なりに感心しました。
別々に使うことはないんだからひとまとめで1足で良いような気がするのに、「1足」の場合はわざわざ a pair of shoes なんて言わなければなりません。なんか外国人ってすっごい堅ブツなんだ、と思った記憶があります。
でも、shoes は頭で考えれば納得が行きます。納得が行かなかったのは trousers や pants、drawers などです。右足と左足に分かれてるったって腰のところで繋がってるじゃないですか。なんで、それ複数形なんでしょう?
ズボン(trouseurs)ならまだ分かります。でも、下着のパンツの場合はズボンみたいに足が入る長い部分がなくて、ほとんど左右に分かれてさえいないのに、1枚しか履いてないのに pants とはこれ如何に?
で、今回の1台のエレベータにつき2枚のドアというのも、それに近いような気がしませんか? ま、こっちは納得が行かないほどのことではないのですが…。
で、そこまで考えたら、急に別のことが気になってきました。
閉まりかけているのは明らかにこの1台のエレベータです。ならば定冠詞 the が要るのではないでしょうか? 何故 The doors are closing. ではないのでしょうか?
それとも、アナウンスではちゃんと発音されているのに、私の耳が the を聞き取れていないというだけのことなんでしょうか? いや、何度聞き直しても絶対言っていません。
やれやれ、複数形だけでもかなり奥が深いのに、冠詞まで絡んでくると、なかなかぴしゃりと解答できる日本人はいません。
英語は難しいなあ。あらためてそんなことを感じたエレベータでした。