以前台湾に行った時に、お店の看板に「女装」と書いてあったので、てっきり男性が女性の恰好をする趣味の店かと思ったら、「婦人服」の意味だったので驚きました。
これは私が日本での「女装」という言葉の使い方に慣れてしまって、「女装」という言葉は男性が主語の時にしか使わないものだと思い込んでいたせいです。
ところが台湾では(考えてみたら当たり前ですが)女性の装いのことを女装と呼んでいたわけです。
日本では女性が女性の恰好をすることを「女装」とは決して言いません。そして、台湾では恐らく「女装」が男性用の婦人服を指すことはあまりないのではないかと思います。
このように言葉というものは、ある特定のシチュエーション、特定の文脈、特定の条件下でしか使われないことがよくあります。意味するところは字面よりももっと限定的であったりするのです。
例えば、「立ち小便」というのは立って小便をすることかと言えば、決してそうではありません。男性がトイレで立って小用を足すことは「立ち小便」とは言わないのです。
トイレではないところで小便をすることが立ち小便なのです。字面の見た目とは違って、言葉がこういう特定の場面を指すのって面白いと思いませんか?
さらにもっと言うと、立ち小便という言葉は今では男性の行為を指すものですが、歴史的には女性の行為を指す言葉だったそうです。
着物を着た女性が戸外で用を足そうとする場合、こっちを向いてしゃがむと大事なところが丸見えです。じゃあ、向こうを向いてしゃがめば大丈夫かと言えば、着物の裾をまくってしまうと、やはりお尻が丸見えです。
では、屋外で用を足す際に、恥ずかしいところが全く見えないようにするにはどうしたら良いでしょうかか?
──それは、まず林や壁など、向こうに人がいない所を背にして、こちらを向いて足を開いて立ちます。そして、着物の後ろ側だけをまくり上げ、上半身を前方に屈めてお尻を後方に突き出し、着物が濡れないようにおしっこを後方に飛ばす、という方法しかありません。
かつて女性たちはそうやって道端で小用を足していたらしいということが、江戸時代の文書に残っていると言いますからびっくりです。そう、『男はつらいよ』の寅さんの口上にも「粋な姉ちゃん立ち小便」という一節がありますもんね。
昔は女性の外での小用が「立ち小便」と言われていたのに、今では男女が逆になり、しかし「外での小用」という場面だけはそのまま残っているのです。
別の例を挙げましょう。「パンチラ」という言葉があります。言うまでもなくパンツがちらっと見えることですが。これはおっさんのパンツの場合には使われません。
また、洗濯物干しに掛けてあるのがちらっと見えるとか、下着売り場に展示してあるのがちらっと見えるとかいう場合にはやっぱり使いません。あくまで女性が着用した状態で見えるのでなければ、使わない表現なのです。
男装/女装というところからネタはどんどん下半身に降りて行ってしまいましたが、一旦そういう観点から離れましょう(笑)
「ポイ捨て」という言葉があります。これは一見「ポイッと捨てること」の意味のように思われるかもしれませんが、そうではありません。
ポイッと捨てても捨てた先がゴミ箱である場合は、決して「ポイ捨て」とは言わないのです。
ゴミ箱でもないところにポイッと捨ててしまう不道徳な行為を指すのが「ポイ捨て」なのです。あるいはゴミでもないものをポイッと捨ててしまうのも「ポイ捨て」で、その共通点は不道徳な感じです。
だから、愛する振りをして相手の女(男)からうまい汁を吸い、挙句の果てにポイッと捨ててしまうのもポイ捨てと言って良いのでしょう。
あ、また男女の下世話な話に戻ってしまいましたね(笑)
他にも探せば似たような実例は山ほど出てくると思います。たまたま下世話な例ばかりになったのは、ひとえに私の品性の卑しさによるものなのでしょう。
私は特定の文脈でしかお呼びのかからない書き手なのかもしれません(笑)