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不適な「的」、不可な「化」

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  • yamaeigh
  • 2020/01/04 03:52
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中国語の文章を見ていると「的」という字が日本語の「の」や「な」と同じように使われていて面白いなあ、と気づいたのは大学生の頃でした。で、それとこれとは全く関係がないとは思うのですが、時を同じくして、その頃から若い人たちの「的」の使い方がめちゃくちゃになってきたような気がするのです。 

それは例えば、「俺的に言えば、意味的な部分がもうちょっとはっきりしないと納得できねえ的な…」的な使い方です(笑) 

もう、なんでもかんでも「的」で繋いでしまう、と言うか、「的」以外の繋げ方知らんのか!と言いたくなるような表現がやたらとはびこってしまいました。 

多分便利だからでしょう。断定を避けて「のような」「みたいな」というニュアンスを出す効果もあるのでしょうが、何よりも単なる接着剤としての便利さがこの傾向を促進しているのだと思います。 

ただ、「わたし的には」とか「気持ち的には」などという表現が何故しっくり来ない(我々の世代にとっては、の話ですが)かと言えば、まず「わたし」も「気持ち」もともに「やまと言葉」だからです。 

「的」という接尾語は、絶対やまと言葉につけてはいけないという訳ではありません(「さみだれ的に」などという用例もあります)が、漢語につけたほうがより座りが良くなります。 

それが証拠に「わたし」を「私」に変えて「私的」とすれば違和感はありません。ただし、この場合の読みはシテキであり、意味も変わって来ます。「気持ち的」は気持ちの悪い表現ですが、「気分的」なら気分が悪くなったりはしません。

「的」の働きは名詞を形容動詞化して他の単語と結びつけることです。どういう時に「的」をつけるかというと、 

活用語尾をつけて形容動詞にできるものはそのまま使用する(「的」はつけない) 
活用語尾をつけても形容動詞にならないものには「的」をつけて繋げる

例えば「確実」「自然」「明白」などの名詞は「確実だろう」「自然な」「明白に」などと形容動詞化できるので「的」はつけません。「自然的に崩れた」などと言っている人がいますが、それは本来間違いです。「自然に崩れた」で良いのです。

それに対して、「壊滅」「女性」「効果」などの名詞はそのままでは形容動詞にならないので、「壊滅的だろう」「女性的な」「効果的に」と「的」を挟んで形容動詞にします。 

「的」の別の用法として、活用語尾をつけずにそのまま他の名詞にくっつけることもできます。

例えば「段階的発展」とか「象徴的事件」とか…。

ただし、この場合後に続く名詞は通常漢語です。

高校時代の同級生が英語の授業で "modern ships" を「近代的船(きんだいてきふね)」と訳して失笑を買ったのですが、これは「船」がやまと言葉だから座りが悪いのであって、「近代的船舶」とすればおかしくもなんともありません。

また、中国語の「的」は単純に「の」に置き換え可能なケースが多いみたいですが、日本語の場合は必ずしもそうは行きません。

例えば「日本の建造物」と「日本的建造物」は微妙に違いますし、「詩の表現」と「詩的表現」も違います。

日本語の「…的」は、意味の面では「…に特有だ」「本当に…らしい」「…の性質を持っている」「まるで…のようだ」ということを表わします。

「日本的建造物」は「日本の伝統に特有な様式を踏まえた建造物」であって、日本国内にある近代西洋的ビルディングは含みません。「詩的表現」は「まるで詩のような表現」であって、それが実際に詩の中で使われているかどうかは関係ありません。「的」の1字で随分と深いニュアンスを表わしている訳です。

我々の世代にとって気持ちの悪い「~的」の大半は「~としては」の代わりに使われるものです。

上の「気持ち的には」もそうですし、「わたし的に言えば」も近いものがあります。他にも「長さ的にはちょうどだけれど幅が足りない」などと言ったりします。まあ、言葉の世界で便利なものが幅を利かすのは仕方がないところではあるでしょうね。

むしろ私が気になるのは、やたらと「的」を使うということではなくて、「的」を使う必要がないところで余計な「的」を使ってしまっている表現です。

例えば、上述の「俺的に言えば、意味的な部分がもうちょっとはっきりしないと納得できねえ的な…」という表現はあまり良い表現とは言えないかもしれませんが、「的」が不必要なところに「的」を使っているわけではありません。

「的」が不必要なところに「的」を使っているとはどういうことかと言えば、例えばこんな表現です。 

乱暴的な 
優秀的な 
巨大的な

年配の方は信じられないかもしれませんが、実際こういう使い方をする若者がいるのですよ。これらは単に「乱暴な」「巨大な」などと言えば良いのに、いつもの癖なのか、変な「的」がくっついてしまっているのです。

上に書いたように、「的」はどういう働きをするものかと言えば、単独では形容動詞の語幹にならない名詞の末尾に付いて、それを形容動詞化するためのものです。

繰り返しになりますが、名詞には「だろ・だっ・で・に・だ・な・なら」の活用語尾を付けて形容動詞にできるものとそうでないものがあります。「乱暴」であれば「乱暴だろ(う)・乱暴だっ(た)・乱暴で・乱暴に・乱暴だ・乱暴な・乱暴なら(ば)」という風に形容動詞にすることができます。

ところが「暴力」という単語は同じように語尾を付けて形容動詞にすることができません。それを形容動詞的に使いたい時に持ってくるのが「的」という接尾語なのです。「的」を付けることによって「暴力的だろ(う)・暴力的だっ(た)・暴力的で・暴力的に・暴力的だ・暴力的な・暴力的なら(ば)」と活用できるようになるのです。

意味としては「のような」というニュアンスが加わります。上で何の気なしに使っている「形容動詞的に」というのも「形容動詞のように」という意味です。

「的」はそういう用法の、そういう意味の部品なのです。これは他の名詞と結合する時の接着剤にもなります。例えば「暴力的手段」などと。

それに対して、乱暴は元から形容動詞の語幹なので、そこに「的」を加えることによって、日本語としては不自然な重複感が出てしまうのです。

中国語なら「乱暴的」みたいな表現はあるのかもしれません。中国語には形容動詞の活用語尾といったものがないので、繋がりを明らかにするために必要になるのでしょう。

でも、日本語の場合は、形容動詞の語幹に「的」をつけてはいけないのです。まずそこを見極める必要があります。そのためには、その名詞に「な」を付けてみておかしくないかを考えれば良いのです。

「乱暴な」はおかしくないですが、「暴力な」は変です。だから「暴力的な」という表現が成立するのです。同じように、「優秀な」はよく聞く表現ですが、「優越な」とは聞きません。だから「優越的な」という表現が成立するのです。

一般に、動詞の語幹となる名詞(例えば「優先」)は、形容動詞の語幹にならないことが多い(「優先な」とは言わない)ので、そういう場合には「的」が付けられる(「優先的」となる)ことが多いのです。そんなことを憶えておくと判断の助けになります。

もちろん言葉のことですから例外はあります。「健康な」という表現はおかしくないのに「健康的な」という表現も成立しています。ただ、この場合「健康な」と「健康的な」では若干意味が異なります。言わばそういう使い分けのために成立している表現なのです。

「的」と同じく、最近の若い人の使い方が怪しげになっているものに「化」があります。 

形容動詞になる名詞に「的」が付かないように、活用語尾を付けて動詞になる名詞には「化」はつきません。例えば、「巨大化する」はOKだけれど「拡大化する」はおかしいのです。それは「巨大する」とは言えないけれど「拡大する」とは言えるからであり、「拡大する」と言えばそれで済むからです。

ただし、「どんどん拡大して行く傾向」という意味で「拡大化傾向」という使い方はアリです。この辺がことばの面倒なところですかね。

あ、言語学の専門家でもないくせに長々と書いてしまいました。部分的に間違っているところがあるかもしれません。ボロが出ないうちに、これ以上拡大するのはやめておきます(笑)

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放送局で働いていました。今はただの爺です。

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