英語の main をいまだにメーンと表記しているのを見かけることがあります。ちょっとガクッと来ません?メーンって何ですか? 剣道の掛け声じゃあるまいし。
最近はメインと書くほうが一般的ですよね? でも、昔は新聞も雑誌もみんなメーンと書いていたんです。
play はどうですか? 最近はプレイと書く人が増えたと思いますが、これも昔はプレーでした。ファイン・プレーとか、フェア・プレーとか。
なんでまた二重母音の [ei] を長音「ー」で表すのかと訝る人もいるかもしれませんが、でも、考えてみれば Sunday はサンデーだし、straight はストレートだし、data はデータ、cable はケーブルです。mail はどうですか? メイルと書く人もいますが、そう書かれるとちょっと気が滅入りませんか?
むしろ [ei] を長音「ー」で表さなくなったのは最近のことなんです。なんでそんな風に表記し始めたかと言うと、明治政府がそう決めたからなんだそうです。
それは外来語だけではありません。日本語であってもカナで書く時には「先生」は「センセー」、「生徒」は「セート」と書きましょう、と指導したのだそうで、これは教科書にも採用されたのだそうです。
[ei] だけではありません。[ou] も同じで「道路」は「ドーロ」、「証拠」は「ショーコ」です。
ただ、ややこしいのは、それは漢語/音読みの場合だけであって、やまと言葉/訓読みの場合はそうではないのです。じゃあ、どうかと言うと、当時のことだから当然旧仮名遣いで、例えば「そういう訳で」は「ソーユーワケデ」ではなく「サウイフワケデ」にしなければなりません。
で、そんなややこしいルールは案の定、定着しなかったわけですが、この長音に棒を引く「字音棒引き」は、こと外来語に関しては長らくしっかり守られてきたのです。
私が考えるに、これは何故かと言うと、英語にはエイという二重母音はあるけれどエーという長母音は存在せず(ドイツ語にはありますが)、逆に従来の日本語にはエーという長母音はあるけれどエイという二重母音は存在しなかったからではないでしょうか。
え?日本語にも [ei] という音はあるでしょ?と思われるかもしれません。確かに書く時にはケイカク(計画)、テイメイ(低迷)、セイセイカツ(性生活)などと表記していますが、そんなにはっきりと「イ」を発音している人はいなくて、みんなケーカク、テーメー、セーセーカツになっています。
同様に日本語には「オウ」という二重母音もなくてみんな「オー」になってしまいます。ホウドウ(報道)、オウサマ(王様)、ホウレンソウ(法連草)などと書きながら、声に出して読むとホードー、オーサマ、ホーレンソーになっているのです。
だから、英語の二重母音[ou] もすべて字音棒引きで、ball も bowl も一緒くたにボールだし、Paul も pole もいっしょくたにポールで、Lord も road もいっしょくたにロードになってしまいます。
江戸時代の最後から今に至るまでの元号を並べてみましょう。慶応、明治、大正、昭和、平成、令和──これを我々はこう発音しています:ケーオー、メージ、タイショー、ショーワ、ヘーセー、レーワ。
でも、メーンがいつしかメインに変わってきたように、レーワが完全にレイワになる日が来るかもしれません。
ことばって面白いですよね。