
どうも、やんぐです。

NFTカードのナーフ提案に踏み切ろうと考えています。今はやんぐ本体の生活と別件ガバナンスが忙しいので少し先にする予定ではありますが、今後NFTナーフの議論は避けて通れない道になるのでは?と考えています。
もっとも、NFTカードのナーフについては、その資産を所有するのに近い性質から、ナーフ自体が許されないという意見も根強いです。以前私が同様の提案をしようと思って立てたフォーラムでも、NFTの「所有権」がユーザーにあるから調整は許されない、という見解も聞かれました(なお、この見解を徹底すれば、ナーフばかりでなく強化も当然許されないことになると思います)。
そこで、この点に関する私の考えを述べたいと思います。多くは現状分析と要素の提示となります。
まずはっきりしていることとして、NFTは所有権の対象ではありません。所有権の対象は有体物であり、デジタルデータであるNFTについて、所有権はありません。
NFTを構成するデータ自体は一定の文字列等で表される無機質なものですが、もちろんNFTを購入するユーザーは、その無機質なデータ自体に価値を見出しているのではありません。ことゲームの文脈では、そのデータの保有がゲーム内で有利な地位を得ることにつながるから購入されます。したがって、NFTの保有とは「コンテンツを一定の方法で利用できる地位」であると捉えることができ(長島威志「NFTと法的課題」消費者庁ウェブサイト)、これがNFTの資産価値を構成しているといえます。
そうすると、NFTの価値は、NFTが利用できる媒体(NFTの性質上、単一とは限らない)との相対的関係で決まることになります。
そこでクリプトスペルズとの相対的関係を構成する利用規約を見てみますが、この点に関する規律をはっきりと定めるものはありませんでした。

一応第6条1項がサービス内容の任意変更を定めており、ある無機質な文字列からなるデータがクリプトスペルズ上でどのような意味を持つかは、クリプトスペルズを利用して提供される一切のサービスに含まれる(というかほぼサービスの中核)ものと解されますから、少なくとも規約上はその意味を任意に変更できるようにも読めます。そして、その場合の損害賠償等の普段は原則として免除されているので、ここにおいてユーザーがクリプトスペルズに対して期待できる資産保護は、実は規約上はあまり強力なものではありません(ただし、これらの規約が法的に有効かはまた別問題。知らんけど)。
続いて、パラメータ調整ガイドラインです(2024年8月17日現在)。以下のような記述がありました。

所有権があるからガバナンス投票で調整するというロジックはよくわからない(本物の「所有権」は、原則として多数決では奪えません)ですが、ともかくガバナンスによりNFTカードの調整が可能であるとされています。補填なども特にないものとされていました。
これ以外には、特にNFTの価値保全に関しそうなルールは見当たりませんでした。クリプトスペルズにおいて、カードに「所有権」があるとか、カードが「資産」であるという意味を分解すると、(少なくともクリプトスペルズとの関係では)ここまで論じてきたような相対的な意味しかないと解さざるを得ません。
そうだとすれば、クリプトスペルズにおいては、カードが「NFTである」ことを理由に「ナーフは許されない」と結論することはできないと考えられます(ナーフ可否の結論は、可である)。
なおいつものように蛇足ですが、明確な所有権を得ることのできる紙のカードゲームだって、当該カードゲームの発行主体から「エラッタ」の名のもとにバランス調整(実質的なナーフ)がされたり、禁止カードや制限カード、デッキに入れると勝ち点が下がる仕組みなど、相対的に購入時より資産価値を下げる仕組みがたくさん導入されています。いわんや所有権のないNFTをやで、(具体的なサービスとの関係で契約上の保護があるなら別論)買った資産だから全面的に保護されるという立論が成り立たないのは、ゲームの性質上仕方ないものともいえます。
しかしながら、ある事象が可能だからといってそれが適切とは限りません。カードのナーフは当該カードの市場価格に直接影響するところ、さしたる必要性もないのに徒にナーフを行えることとしたり、必要性の程度に照らして不相当なナーフの仕組みを設ければ、カードの価値が不安定になり、カード保持のインセンティブを下げてしまうかもしれません。
ここにいう必要性と相当性は、一般論としてのそれらと、個別のガバナンス提案におけるそれらが観念できると思いますが、本稿の目的は前者を論ずることなので、できる限り論点を前者に絞ります。
「あのカードは強すぎる」「ゲームを壊している」「クリスペをつまらなくしている」
表現はなんでもいいですが、そんな感覚を持つカードはありませんか?そう感じるカードは人それぞれでしょうが、その感覚がまさにナーフによる環境調整の必要性です。
私は先日、なぜ強すぎるカードはいけないのかに関する論考を書きました。強すぎるカードはゲームの知的レベルを下げ、環境を破壊します。
事務局による新規発行カードのカードパワーのバランスに信頼は寄せられますか?事務局が強すぎるカードを出してしまった場合は、私たちの手で環境破壊を防がなければなりません。
この必要性の議論に対しては「ナーフではなく他カードの強化によって環境破壊を防げるから、環境破壊の防止はナーフの必要性を基礎付けるものではない」という批判があり得そうです(もっとも、上述のとおり、資産的価値を徹底する立場からはナーフも強化も同論となると思われる)。しかし、強化だけの世界はインフレの世界にほかなりません。また、これまで強化による環境調整が行われてきましたが、その性質上、環境変化への影響は限定的にならざるを得ないので、強化を中心とした環境調整には限界があるように感じられます。
必要性があるとして、ガバナンスでナーフをすることは相当でしょうか。私としては、NFTナーフ適否論の議論の争点はここだと思っています。私としても、資産価値を直接低下させることに抵抗がないわけではありません。
NFTの資産としての性質を強調し、どんなに必要性があろうとカード能力の変更は許さないというのは一つの立場でしょう。これは、できるけれども、必要もわかるけれども、それでもやらないという道を選ぶということです。
あるいは、かつて事務局が「猫耳魔法騎士ユキ」をナーフしたときのように、事務局側に補填を求めるという方法も考えられます。実は上のパラメータ調整ガイドラインでは、かつては補填のルールが定められていました。調整がガバナンスに委ねられたことによってルール変更がなされた?わけですが、その変更自体のガバナンス委託はありませんでした(余談ですが、私は今後ルールメイキングも我々ユーザーでやっていきたいと思ってます)。我々ユーザーが「このガバナンスが通ったらナーフと同時に補填をする」という条件付きでガバナンス提案を行ったらどうでしょうか。法令に反するわけでもありませんし、工数次第でしょうか。あるいは、事務局からの「対応不可」が返ってくるでしょうか。
NFTナーフのハードルをあげるというのも一つの方法です。私は以前、資産価値保護と環境保護のバランシングを、レジェンドはナーフ禁止、ゴールドはナーフのために75%の得票が必要、というルールメイクに求めようとし、ガバナンス提案をしました。大口TCGCユーザーの「学習コストが多くなる」という意見をはじめとして、否決されました。もっとも、個別の提案において75%得票を設定することは今でも可能です。
もちろん、ガバナンスでの多数決で決めればよい、それ以上でもそれ以下でもない、という立場もありえます。現在、ガバナンス提案ルール以外は特段のルールがないため、これが現在の民意のデフォルトであり、事務局見解だと思われます。
いずれにしても、現時点でNFTナーフのガバナンスを一般的に律するような特別なルールはありません。
そこで、我々は個別のガバナンス提案にあたって、上述したNFTナーフそれ自体の適否に関する各々の価値観に加え、当該NFTナーフ提案それ自体の必要性と相当性を踏まえて投票行動を判断することとなります。
これまで、NFTのナーフ提案は現実に行われたことはありませんでした。おそらく、前例がなく、資産価値へ直接のダメージがあるから、見送ってきた方も多いのではないでしょうか。ただ、NFTであるという要素が何を意味するのかは、もう少し分析的に考える必要があります。本稿がこれを考える一助になれば幸いです。










