漁夫「天人(てんにん)の舞楽(ぶがく)、ただ今ここにて奏(そう)し給(たま)わば、衣(ころも)を返し申(もう)すべし。」
天女「嬉(うれ)しや、さては天上(てんじょう)に帰らんことを得(え)たり。この悦(よろこ)びにとても、さらば、人間(にんげん)の御遊(ぎょゆう)のかたみの舞(まい)、月宮(げっきゅう)を廻(めぐ)らす舞曲(ぶきょく)あり。ただ今ここにて奏(そう)しつつ、世(よ)の憂(う)き人に伝(つた)うべし。さりながら、衣(ころも)なくては叶(かな)うまじ。さりとては、まず返し給(たま)え。」
漁夫「いや、この衣(ころも)を返しなば、舞曲(ぶきょく)をなさでそのままに、天にや上(あ)がり給(たま)うべき。」
天女「いや、疑(うたが)いは、人間(にんげん)にあり。天(てん)に偽(いつわ)りなきものを。」
漁夫「あら、恥(はず)かしや、さらば」とて、羽衣(はごろも)を返し与(あた)う
(参考文献: 野上豊一郎 「羽衣」, 『謠曲全集 : 解註 巻2巻』.)
頼光(らいこう)、保昌(ほうしょう)、綱(つな)、公時(きんとき)、貞光(さだみつ)、季武(すえたけ)、独武者(ひとりむしゃ)、心を一つにして、まどろみ臥(ふ)したる鬼(おに)の上に剣(つるぎ)を飛ばする光の影、稲妻(いなずま)震動(しんどう)おびただし。
酒天童子「情(なさけ)なしとよ客僧(きゃくそう)たち、偽(いつわ)りあらじと言いつるに、鬼神(きじん)に横道(おうどう)なきものを。」
独武者「なに、鬼神(きじん)に横道(おうどう)なきとや。」
酒天童子「なかなかの事(こと)」
独武者「あら、空言(そらごと)や。などされば、王地(おうち)に住(す)んで人をとり、世(よ)の妨(さまた)げとはなりけるぞ。我(われ)をば音にも聞きつらん。保昌(ほうしょう)の館(たち)に独武者(ひとりむしゃ)、鬼神(きじん)なりとも遁(のが)すまじ。ましてや、これは勅(ちょく)なれば、土(つち)も木(き)も、我(わ)が大君(おおきみ)の国(くに)なれば。何処(いずく)か鬼(おに)の宿(やど)りなるらん。余(あま)すな、洩(もら)らすな、攻めよや攻めよ、人々」とて、切先(きっさき)を揃(そろ)えて切ってかかる。
(参考文献: 佐成謙太郎 「大江山」, 『謡曲大観 第1巻』, 明治書院.)
(参考文献: 廿四世 観世左近 (訂正著作者) (2017年) 『大江山』, 観世流大成版, 檜書店.)
・「三保松原 羽衣の松」("Miho-no-Matsubara Hagoromo-no-matsu.JPG" ( https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Miho-no-Matsubara_Hagoromo-no-matsu.JPG?uselang=ja ) by Saigen Jiro on Wikimedia Commons (License: CC0 1.0) ).
・香取本『大江山絵詞』(現状の絵巻の原本の「下巻 第七絵図」)の模写.
現存最古の酒呑童子説話『大江山絵詞』(香取本)の絵巻物
https://wisdommingle.com/?p=17986
「これ好奇のかけらなり、となむ語り伝へたるとや。」