経済学者のシュンペーターは、イノベーションは経済と社会を今ある段階から次の段階へと押し上げる最大の原動力と言いました。つまり、世の中がからりと変わってしまうような革命的な発見や発明をイノベーションと言います。
例えば、アインシュタインの相対性理論やプランクの量子仮説がイノベーションと言えます。これらは旧来の理論をひっくり返すかのようなものになっています。
しかし、どのようにすればイノベーションが起きるのかはわかりませんし、起こすのが非常に大変です。
イノベーションが実現するには、偶然と執念とねばりつよい努力と幸運が揃わないと実現しませんので、かなり難しいです。
また、イノベーションは、成功した企業ほどなぜかうまくいかないというイノベーションにジレンマがあります。なぜなら、成功した企業ほど目の前の顧客のニーズに対応した合理的で効率のいい事業をするため、なかなか起きないというものです。
でも、イノベーションは、多様性と不確実性の海の中から突然生まれてくるものであります。つまり、従来の常識からは生まれてこないというものです。
成功した企業ほど合理的に事業を進めるので常に利益が出るようなシステムになっていますが、イノベーションは、これとは違うシステムから生まれます。競馬で言えば、万馬券を当てに行くようなものであり、ギャンブルだと言えます。だから、賢い人は初めから手は出しません。
その中で、イノベーションが起きると古いものは駆逐され、新しいものが出てくる大波になります。
長期的に見ればイノベーションは必須だが、短期的には効率的に経営するのが合理的です。それが、イノベーションのジレンマの本質です。
では、イノベーションを生む経営をするにはどうすればいいのでしょうか。
1970年代、会社では事業部門と研究開発部門が組織的に分離されていました。それは、効率優先とリスク回避の文化ではイノベーションは起きないから、分離させようと考えられたからです。
しかし、実際は、事業部門と研究開発部門の間には機能的で文化的かつ組織間対立の意識のギャップが存在していましたので、研究開発部門でイノベーションを生み出せても、事業部門で却下されていました。
そこで、アメリカではエコシステムというのが考えられました。それは、イノベーションはベンチャー企業、効率的かつ合理的な経営で高収益を狙うのは既存の企業という役割分担であります。しかし、そこで資金面の問題が発生しますが、アメリカのビジネス界は、ベンチャーキャピタルというものを成立させてベンチャー企業への資金をあげることができました。
日本で同じことがうまく行くかと言えばそうではなく、アメリカでは事業が失敗してもその後のキャリアに傷がつくわけではないが、日本ではそうではありません。なので、優秀な人ほど大手企業に行く傾向があります。
イノベーションは失敗しても、その取り組みに評価するという文化がないとできません。その中で、絶対成功するという志がないといけません。その志がどんな困難な時でも打ち勝つぞということで頑張ることができます。これは、個人だけでなく、組織としてもビジョンを共有しなければなりません。その鍵は、経営陣にあると言えます。
就職活動をするときは、ただ話を聞くだけでなく、組織として何を実現し、それが自分の方向性とあっているのかを確認する必要があるでしょう。
また、そんな企業がなかった場合、自分で起業をするというのも一つの手になります。
波頭 亮「経営戦略論入門 (PHPビジネス新書)」PHP研究所 (2013/6/7)