お椀の中に宇宙が広がる、世界に3つしかない国宝・曜変天目茶碗を3点とも鑑賞する完全制覇への道、第二弾です!
第一弾は東京二子玉川・静嘉堂文庫美術館でした。
今回は、3つの美術館のうちで行くのが最難関と思われる、滋賀県にあるMIHO MUSEUMに行ってきました。
このMIHO MUSEUM、滋賀県と言っても周りに人家など無い山の奥深くにあるんです。
最寄り駅らしきものなどありません。公共の交通手段はバスとなりますが、それも一日数本。
滋賀県のJR石山という駅から50分かかります。
僕は車を運転して行きましたが、ほとんど車通りがない細くて曲がりくねった山道を延々と行かないといけません。
天気が荒れていたりしたら事故をしそうです。事故をしても携帯の電波は届かないので連絡するにも困ってしまう。
そんなこんなで、なんとかMIHO MUSEUMにたどり着きました。
駐車場から出て、この建物へ。
あれっ、美術館にしては小さいな?
それに小さなバスが止まっている?
この建物は「レセプション棟」と名付けられています。
つまり、入り口の建物にすぎません。
ここから歩いて、あるいは上の電気自動車に乗って美術館に行きます。
規模の大きさ、半端ない…。
せっかくなので、歩いて美術館に向かいます。
美術館への道。景色がいいですね。
4月最後の日だというのに、まだ八重桜が咲いていました。
山の中なので、朝夕は冷えるのでしょう。
シャクナゲもきれいです。
桜咲く景色を楽しみながらしばらく歩いていると、トンネルへ。
このトンネルを抜けると、そこには美術館。
なかなか粋で大掛かりな仕掛けです。
トンネルに入ります。内張りはアルミで渋く光っています。
異次元への通路かな?
トンネルを抜けると、そこは美術館。
桃源郷に来たような演出がすごいです。
MIHO MUSEUM美術館棟。
入り母屋のような入り口だけが見えます。
これは、環境を保護するために建物の80%が地中に埋没されているためとのことです。すごい。
建物だけでも見ごたえがあります。
設計はI.M.ペイ氏という、ルーブル美術館のガラスのピラミッドを設計した方です。すごい、めちゃくちゃお金かかってますね。
入口から入ると、ガラスの向こうに信楽の山々が広がります。
左の方に屋根が少し見えているのが、神慈秀明会の本部。
はい、MIHO MUSEUMは神慈秀明会が作った美術館なんです。
こんな山奥に、これだけすごい美術館を作るなんて…。
さあ、道のりは遠かったですが、やっと曜変天目にお目にかかれます!
春季特別展ということで、京都・大徳寺龍光院(だいとくじりょうこういん)の文化財が展示されています。
国宝の曜変天目茶碗は、この龍光院が所蔵されています。
400年もの間、龍光院が所蔵しているのですが展示はされておらず、今まで一般の人の目に触れることはほとんどありませんでした。
そもそも、龍光院自体が非公開寺院なのです。
ですので、幻の曜変天目と言われることすらあります。
今回は、そんな貴重な曜変天目をお目にかかることができます!
どんなのでしょう?
これが、その龍光院の曜変天目茶碗の写真です。
12-13世紀の南宋時代のもの。
MIHO MUSEUMのチラシより引用
ん?
この1枚の写真だけを見ると、紺色の器に白い斑点があるだけで、そんなたいした茶碗じゃないなーと思われそうです。
でも実際に見ると、写真とはかなり違います。
紺色はどこまでも深く、光沢があっていたるところがキラキラと光っているんです。まさに、夜空に光る星のようです。
お椀を見ているはずなのに宇宙を見ている。そんな壮大な世界がこの曜変天目の中にあります。
これは実にわかりやすく、骨董趣味でない自分でさえ魅力的に思えます。
しかし、お椀の中の光景は写真ではわかりません。ぜひ実際にご覧ください。
次に公開される機会はいつになるのかわかりませんが。
そしてもう一点。
重要文化財 曜変天目
MIHO MUSEUMにはもう一点の曜変天目があります。
これは国宝の3点に次ぐ曜変の名椀で、重要文化財です。MIHO MUSEUMが所蔵しています。
こちらは星が七色にキラキラと光っており、とてもきれいで素晴らしいです。
これで、曜変天目3点+1点の3点まで見ることができました!
曜変天目をまじまじと見て大満足しました。さあ帰りましょう。
と思いきや、何かイベントがあるとの館内放送が。
曜変天目を所蔵している龍光院のご住職である小堀月浦(げっぽ)和尚が座禅の会を行うので参加くださいとの呼びかけ。
座禅って、棒で叩かれるのでしょう?
ちょっとこわいなと思いましたが、高名な龍光院のご住職みずから会を開かれるとのことで、とてもありがたそうなので思い切って参加しました。
この座禅の会はとても有意義でした。
まず、会の最初に小堀和尚が恐るべき話をされたのです。
いわく、「曜変天目なんて石の上に落とせば割れるような存在だ」と。
ええっ?!
曜変天目を所蔵しているお寺のご住職がそんなこと言っていいの??
「それよりもこれから皆さんが行う座禅こそ生きた宝なのです。今回の目玉は曜変天目ではなくて、この座禅の会なのです」と。
小堀和尚は日経新聞のインタビューで、
「真ん中に仏法という幹があって、枝ごとに様々なものが掛かっている。曜変天目もその一つだが、大事なのは幹。」
と言われています。
こういう意味で、国宝であっても枝である曜変天目よりも座禅を大切にお考えなのでしょう。その仏教者としての見方、とても考えさせられるお言葉でした。
それでは、座禅開始!
部屋の灯りを暗くして、30分ほどの座禅。
叩かれたかって?
もちろん!
座禅で叩く棒は「警策(きょうさく・けいさく)」と言います。
この警策をいただきました。
警策はウトウトしていると与えられるものではなく、希望がある人にだけ与えられます。
小堀和尚が自分の前まで回ってこられたときに合掌すると、警策をいただけます。
痛いかって?
ほとんど痛くありません!
お坊さんではない一般人に警策を与えるので、もちろん手加減されているのだと思います。
ちょうど心地よい程度で、もっとぶって、ぶって!という気持ちですね(おふざけすみません)。
30分の座禅が終わると、ホッとしたような少し心地よい気持ちになりました。
高名な小堀和尚に警策をいただいて、とても良い経験でした。
曜変天目もしっかり見ることができ、座禅で心も充実したので、今度こそ帰ります。
桃源郷から現世へつながるトンネルに入り、この異世界から去りましょう。
アルミで内張りされたトンネルは、まるでSF映画のタイムスリップするシーンのようです。
天気がひどくならないうちに車で山道を抜けて、お家にたどり着かないと。
そう思って、急ぎ足でどんどん先に進んでゆきます。
あれっ?
行けども行けども出口が見えないよ?
なんで??
この後、彼がトンネルから出てきた姿を見た者はいない…(またか)。
Camera: PENTAX K-3II with SIGMA 17-70mm F2.8-4
東京・静嘉堂文庫美術館編
奈良・奈良国立博物館編
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