肩の力を抜いて見ることができた、いい映画でした。
このALISでもおなじみの、Komiさんこと三輪江一さんが出演された映画「ハッピーアイランド」を観てきました。
じんわりとあとに響く良い映画でしたので、紹介と感想を書かせていただきます。
実はこの映画、観るのがちょっと大変です。
というのは、上映する映画館や上映回数が少ないのです。
映画上映は、関西では1ヶ所だけ。しかも一日一回しか上映されません。
なかなか自分の都合とタイミングが合いませんでしたが、この日はちょうど時間が空いていました。
大阪での上映は梅田やなんばの繁華街ではなく、なんと十三(じゅうそう)。
関西以外の方はあまり知らないかと思いますが、十三は主に男性向けの歓楽街ですね。
その中心部の栄町に映画館があるので、やってまいりました。
時間は夕方、そろそろ賑わってくる時刻です。
十三は誘惑が多く、ブラックホールのような強力な引力を持つお店に吸い込まれないように鉄の意志で頑張りながら?、映画館のあるビルにたどり着きました。
ボウリング場やカラオケなんかが入っているビルなのですね。
エレベーターで上がり、映画館に。シアターセブンという映画館です。
十三なのでピンク映画の映画館かと思いきや、有名ではないけれど良質な映画を上映したり、ライブもするミニシアターのようです。
ちょっと残念…、いや良かったです。
では、チケットを購入しましょう。上映開始になんとか間に合いました。
整理番号5番? ひょっとして??
はい、ご想像どおり、この回のお客さんは5人でした。
自分以外は全員おばさん。
料金は1700円でした。
べつに自分は三輪さんから招待券をもらっているわけでもないので、この料金をお支払いしています。少しでも制作費の足しになれば。
自分が最後に入場したら、すぐに映画が始まりました。
その様子を動画や写真に撮ってレポートしたいのですが、それはno more映画泥棒なのでダメ。
まずは、オフィシャルの予告編を。
金ナシ職ナシやる気ナシ。東京で暮らす23歳の真也は飲み屋の店主の薦めから福島の農家で働くが、さむい・きつい・朝がはやい農作業に初日から嫌気がさす。しかもそもそも野菜は大きらい!
ただ、そんな彼にも優しく厳しく向き合う農家の先輩たち。
初めは地元の保育士里紗への下心で居残った真也だが、やがて手塩にかけた農作物の収穫や、彼のボス正雄の農業への誇りに触れるうち、福島の日々を好きになる。そんな中、ある日真也は初めて売り子をした県外の直売所で、福島県産の野菜を毛嫌いする客にキレて殴りかかる。
真也は諫められるが、どうしても納得がいかず……。(ハッピーアイランドオフィシャルサイト http://movie-happyisland.com)
ストーリーは明瞭でわかりやすい。
オフィシャルのあらすじ通りでとくに複雑な設定はないので、観ていてわからないということはほとんどありませんでした。
(以下、ネタバレを含みます。)
この映画は、ダメダメですぐキレる主人公真也(吉村界人さん)が福島の農家で人々に支えられながら頑張って成長してゆく物語と、福島産農作物への風評被害に立ち向かう農家の方々を描いた作品かと思います。
ここで勘違いしやすいのは、安易な風評は絶対ダメ!という説教口調で物語を描いているんじゃないんです。
風評被害がある中でも一生懸命おいしい野菜を作ってゆくことで、少しずつでも信頼を回復してゆこうとする農家の方々のひたむきさを描いているんです。
これは風評被害の件だけではなく、人生のいろんなことにおいて真っ直ぐに、ひたむきに生きてゆく、その大切さを語っている映画だと思います。
ダメな主人公が農家の方々のひたむきさに触れて、成長してゆくのですから。
この映画の渡邉裕也監督は、映画のロケ地である福島県須賀川市出身とのことです。
原発事故の風評被害の中で農業を続けた、監督の亡き祖父の姿にインスパイアされて作られた作品ですので、とても実感がこもっていると思います。
そして、この作品はフィクションだけではなく、ドキュメンタリーでもあります。
主人公が風評被害をどうしたらいいのか悩んでいると、ボス(萩原聖人さん)が公民館で地元の人が集まる集いがあるからそこで意見を聞けばいい、と勧めます。
その地元の人とは俳優ではなくほんとに地元の人で、生の声をスクリーンに映しています。
このインタビューで地元の人は声を大にして変な風評をやめろ、福島の野菜を買え!なんて言われません。
福島の野菜を買わない人がいるのはしょうがない、福島から出てゆく人がいるのもしょうがない、でも前を向いてやってゆくしかない。そう言われていました。
これは当たり前といえばあたりまえなのですが、とても重みがある発言だと思います。
福島の事故だけじゃなくて、人が苦境に立った時にはとにかく前を向いてひたむきに歩んでゆくことが大切だと、福島の人々が教えてくれたように感じました。
まさに公式のキャッチコピー通り、「まっすぐ生きることを教えてくれた幸せの島で過ごした物語」だと思います。
まず、主人公真也こと吉村界人さんがいい意味でヤバイ!
ほんとにケンカして職場をすぐやめそうなヤンキーの雰囲気そのままで、臨場感があるんです。いつキレるんだろうと、映画を見ながらヒヤヒヤできたのがまた良かったです。
実際その期待に応えて?、福島野菜の物産展で客に殴りかかってくれました。
でも、最後はきちんと自分の考えを持って、次に進んでゆく姿が素敵でした。
主人公のボスで農業を営む萩原聖人さんは、さすがにベテランという感じで上手いです。風評被害にもめげず実直に野菜を作り、主人公の成長を支えてゆく姿には心打たれました。
ヒロインで、主人公が恋心を抱いている大後寿々花さんもよかった。ヒロインらしく厳しい世界に咲く一輪の花のような立ち位置の演技でした。
そしてヒロインの兄で、主人公たちと一緒に野菜を作っているのが三輪江一さん。
上の写真の左から二番目、手押し車を持っている方です。
三輪さんは名脇役かと感じました。
主人公とそのボスは風評被害に耐えて一生懸命野菜を作っているのですが、そういう姿を見るとどうしても肩肘張ってしまいます。そんなときに三輪さんの優しい笑顔が出てくると、肩の力が少しゆるむんです。
この映画は、あまり福島について重くなりすぎないようにしたいとの監督の意志があったようです。三輪さんの演技はその意図をよく果たしておられたように感じました。
今回の映画上映にあたって、三輪さんが書かれたALIS記事です。
主人公真也が福島の農家に来て3ヶ月。
いろいろ問題があっても地元の人に馴染み仕事もでき、本人もこの場所が好きになっていました。
でも、主人公は福島の地を去る決断をします。
どうして福島を去るのかの詳しい理由は語られていません。次の土地で未来が開けるような描写でもありません。
でも、この映画ではそれでいいんだと思います。
主人公が福島に残り農業を頑張りヒロインと結婚して家庭を築いてゆくという、ハッピーエンドでないのがいいのです。
それは、福島野菜の風評被害はまだ続いておりエンドではないからです。
映画上映は時間が来れば終わりますが、現実は終わりません。
だから、主人公も福島を去って次の土地でまたつらい思いをして生きてゆく現実を映すことが大切だと思うのです。
震災、原発事故、風評被害。そんな大変な中で一生懸命生きてゆくこと。
そしてそれが普通のことである人々を、大げさな感動なく描いた作品、それがハッピーアイランドだと感じました。
原発事故という重い話題を描きながら、力まず自然体で観られるというのは嬉しいことです。
上映が終了して、すごく感動したとか全米が泣いたとか、興奮のるつぼとかいう力の入った感想はありません。
静かに想いが残ってゆく、そして後味がとても良い、そんな作品でした。
映画館を出ると、十三の街はすっかり夜。
妖しげな看板が誘蛾灯のように光っています。
そんな妖しいお店のブラックホールのような強力な引力に引き込まれそうで、ああっヤバイ!
でも、なんとか無事に帰りつきました。
この映画は原発事故という重い話題を扱うので、観るのはしんどいなと思っていましたが、肩の力を抜いて観られたのはとても良かったです。
気軽に多くの人に見てもらえる映画かな、と感じます。
素人ながら、英語字幕でもつけて海外に持っていっても評価される映画のように思いました。
それが観客5人ではもったいない。
これからも場所を替えて上映は続くようですので、機会があれば観てくださいませ。
関係の皆様、三輪さん、いい映画をありがとうございました。
(注:記事中の映画説明の写真は公式チラシと公式インスタグラムを使わせていただいたもので、著作権や肖像権には留意しているつもりですが、問題があるようなら削除いたしますので、著作権者の方はご連絡ください。)