私は以前、崩壊寸前のスマホアプリ開発チームの立て直しを命じられ、プロダクトマネージャー兼開発ディレクターとしてジョインしました。
前任のマネージャーが「支配型」のタイプで、細かいところまで指示をしミスをしたら叱責をする。反発しようもんならさらに叱責をする。そういう状況で開発を続けてきた結果、エンジニアメンバーのモチベーションがどんどん下り、さらにどんどん辞めていき、プロダクトの品質も悪化の一途を辿っていました。
私は1年弱試行錯誤して何とかようやくチームらしいチームにすることができました。その立て直しの際に重要視したのが「心理的安全性」です。
心理的安全性とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味します。
(引用元:re:Work - ガイド: 「効果的なチームとは何か」を知る)
つまり、チーム内で安心して発言や行動できる心理状態をメンバーが持てていることを示します。「意見を言っても大丈夫」「質問しても大丈夫」とメンバー全員が思える状態です。
Googleの人事が組織を科学した「re:Work」という取り組みがあります。そこでは成果を出しているチームに必要なものは以下の5つの因子であることを主張しています。
(引用元:re:Work - ガイド: 「効果的なチームとは何か」を知る)
ここで最も根幹となるものが「心理的安全性」です。
心理的安全性が高いチームでは
・メンバーから様々な意見やアイディアが出てくる
・メンバーが自ら新しいことにチャレンジする
・メンバー間での意見交換が活発
のような特徴を持ちます。これによってストレスなく仕事をすることができ、プロダクト開発のクオリティやスピードも上がり、次々と成果を生み出すことができます。
ではどうやって心理的安全性の高いチームを作るのか。プロダクトマネージャーとしての私の取り組みを軽く紹介させていただきます。他にも様々なアプローチがあると思いますので、あくまで参考までに。
また加えて一つ落とし穴にハマったので、それについても言及します。
これは大前提になりますが、心からメンバーを信頼しないとバレます。どんなに信頼しているふりをしてもバレます。とはいえ「あの人の仕事は自分の全ての期待に必ず応えてくれる!」と過度な期待をする必要はありません。というかそれだと逆に期待値が高すぎてお互い不幸になります。
もちろんメンバーにはスキルの差はありますし苦手分野もあるので、できないこともあります。だったらそれに合わせたレベルの「期待」「信頼」をしてあげれば良いと思います。「○○さんはドキュメント作成は苦手だから期待しないけど、コーディングは信頼している」みたいな。
チームとして目指す世界、ビジョンをとにかく語りまくります。「俺はこうしたいんだ、だから協力してくれ」というスタンスを、これでもかってほど伝えまくります。
人間は基本的に「人から求められている」という状態を喜ぶ生き物だと思っています。なのでその「求められている感」を日々出して行くことがモチベーションの維持、上昇に繋がると思います。
目指すのは「メンバーが自分の仕事に責任を持つ」という状態です。なので極力その責任範囲の仕事に関しては、プロダクトマネージャーは口を出さない方がよいです。
もちろんその責任範囲の仕事において不安なことがあるのであれば、それに対しては相談に乗ってあげたりレビューする必要がありますが、いちいち細かくチェックして小言を言ってはいけません。
自分の場合は前任マネージャーが細かいタイプだったが故にメンバーの不満が溜まっていたので、ここはかなり意識して任せるようにしました。正直不安もかなりあり、実際に任せすぎたことによる問題も起こりましたが、時間が経てばその頻度も減りました。ここは時間と我慢が必要です。
まずは雰囲気づくりです。どんなに忙しくても、ミーティングでは明るく振舞います。できれば冒頭にアイスブレイクとして小話でも入れたり、メンバーに話してもらったりすると、一気に雰囲気が良くなります。ただし無茶振りとかは厳禁です。
そしてメンバーの発言はしっかり聞きます。よくキーボード打ちながら話を聞いている人を見かけますが、あれはダメ。手を止めて話している人の方を見てちゃんと聞きます。
自分の場合、デイリーミーティングでは各メンバーの抱えている問題を言ってもらいました。で、それをみんなでどう解決するかを話し合い何かしらの解決方法を提示してあげます。さらに最後に「もしこれでも解決しなかったら○○さんに声かけて」「○○さんはその時こう助けてあげて」と、さらにその次の解決方法まで提示してあげます。
こうすることで、問題を言えばチームが助けてくれると認識してもらえます。
「自分の意見や質問はよくほっとかれているから、発信しても意味がない」と思われるのは最悪です。そんな状態を避けるため、極力メールやチャットは即レスです。もし本当に忙しくて質問を受ける余裕がない場合でも、その状態を正直に言うだけで良いです。「ごめん、今余裕がないから回答に時間がかかるかも」みたいな。それだけでも発信するモチベーションは維持されると思います。
自分は頻繁に「何か意見やアイディアがあれば言ってー」と言っています。で、出てきた意見はしっかり拾って、必ず何かしらの答え(採用するか見送るか)とその理由を伝えます。
たまに意見ばっかり募集しても「預かります」と言ってずっとそのままにしている人を見ますが、最終的に出した意見がどうなったのかを明確にしてあげることが重要です。
「ライトな」というのがポイントです。
目的はメンバーからの不満やチームの隠れた問題点などを早い段階で見つけることです。「ちょっと気になるけど改めてエスカレするほどでもないな…」というレベルの小さな問題をメンバーから教えてもらうためには、ミーティングでいきなり「言え」と迫っても言いづらいし、かといって「来週全員と面談やるから各々チームの問題点を考えておけ」とすると身構えてしまって出てきません。また他のメンバーがどういう不満を言ったのかも気になってしまうので、できればこっそりやるのが良いと思います。
他のメンバーに見られていないところで、「最近どう?なんか問題ある?なければいいよ」ぐらいのかるーい感じで聞くのがいいと思います。
ここまで心理的安全性の高いチームの作るポイントを紹介してきました。実際に自分はこういうことをして、崩壊寸前のチームをそれなりにまともなチームにすることができました。
ただ、途中で1つ落とし穴にハマりました。全てのチームでこれにハマる訳ではないと思いますが、参考になればと思い紹介します。
端的にいうと「スキルの高いメンバーの独裁が始まる」です。
チームの心理的安全性が高くなってくると、意見交換や質疑が活発になります。それ自体は喜ばしいことなんですが、そこに一人スキルの高いメンバーがいると、その人の意見や回答が採用されることが必然的に多くなります。その状態が続くとそれ以外のメンバーは「あの人の意見が採用されるから自分が言っても仕方ない」という心理状態になり、再び心理的安全性が低くなってしまいます。
そこでどうしたか。そのタイミングでたまたま2つの大きな案件が入ったので、チームを不均等な2つに分けました。1つはそのスキルの高い人がいる少数のチーム、もう1つは大体スキルが同じぐらいの多数のチームです。
全員が集まるミーティングは1つ残しつつも、デイリーミーティングなどは別々に行いました。そうすることによって、再び各々の意見が必要とされる状態となり、心理的安全性が再び高まってきました。
あくまで個人的な経験に基づくものですが、心理的安全性を高めるチームの作り方をまとめてみました。まだまだチームは完成していないので、これからも継続して心理的安全性の高いチーム作りをしていき、また気づきがあったら追記したいと思います。
もちろんチームの状況や規模によっては異なる方法もあると思いますので、他に「こんなことしたら良くなったよ」みたいな経験があれば教えて欲しいです。
また「今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則――『ジャイアントキリング』の流儀」という書籍もかなり参考にしたので紹介します。心理的安全性だけでなく、チームのフェーズごとに何をする必要があるのかわかりやすくまとまっています。必ずジャイアントキリングを読んだ上で読んでください笑
※この記事は自分自身の別ブログからの転載です。