以前、インドの北部を2週間ふらふらしていたことがあって、そのときに詐欺師とケンカしてしまうというハプニングがあったので、それについて回顧記録として書いていこうとおもいます。
先に言っておくと、殴り合いをしたのではなく、口喧嘩と突き飛ばし合い(?)をしただけで、ぼくも相手もケガはしていない。
1章 駅前から事件は始まっていた
2章 トゥクトゥク
3章 ぼったくり
4章 詐欺師とケンカ
5章 優秀な詐欺師
2019年4月のある日、日本からマレーシアを経由してインドのデリーに到着した。「さあ、これから2週間なにをしよっか」というときに事件は起きた。
空港に着いた直後から、色々あって(省略すると)めんどくさい奴にめちゃくちゃ絡まれたりしたが、なんとか電車で目的の駅まで行くことができた。あとは、駅から徒歩10分の安宿街まで行けばいいだけ、というところだった。
駅の出口を出ると、すでに夜11時だったこともあり空は暗く、外灯で照らされた目の前の細い道路では道沿いにトゥクトゥク(リキシャ)の運転手が大勢待機していた。20人くらいのおっさんと、20台くらいのトゥクトゥクが横にずらーっと並んでいた。そして、次から次へとドライバーたちがバックパックを背負っているぼくに話しかけてくる。観光客だと気づき、目をつけたのだろう。
ぼくは安宿街まで歩いていけることを知っていたので、トゥクトゥクには頼らず歩いていくつもりだった。だから、ぼくは彼らのことを無視していた。しかし、彼らがぼくに向かって、「いま、テロがあって外を歩くのは危ないよ!」みたいなことを、口をそろえて言ってきたので、さすがに少し不安になった。
「そんな情報は聞いてないなー」とは思ったものの、ぼくはSIMカードなしで旅(というか冒険)をすると決め込んでいてネットは使えなかったので、正しい情報を得る手段がなかった。まわりを見渡しても質問してマトモに答えてくれそうな人もいなかった。
(海外旅行には必須といわれるSIMカード)
とはいっても、安宿街まではすぐ近くだし、トゥクトゥクの奴らが言うテロはウソついているかもしれないから、「大丈夫だろ、歩いていこうかー」とおもい、ぼくは細くて暗い道を歩き始めた。
歩きながら道の遠くを見てみると、両端は木々で囲まれていて外灯も少なそうだったので、そのまま歩いて進んでいけば薄暗い中を歩くことになりそうだな、とおもった。ぼくは不気味さを感じながらもそのまままっすぐ歩いていた。
すると、いきなり横からひょっこりと、両脚を失っている男の人が現れた。彼は車椅子を使っていなかった。脚なしで直で立っていた。
さらに、その人は左右の腕を巧みに使って、じぶんの身体を引きずりながら、無言でぼくに近づいてきた。
明らかにぼくを脅かそうとしてやっているのはわかったものの、とても怖くなったので、ぼくはすぐに踵を返した。不気味さを感じているなか、いきなり、しかも無音で、脚のない人が身体を引きずって現れたので、さすがにビビった。そのまま歩いて道を進むことはできなかった。
ビビり倒していたぼくは、渋々、さっき声をかけてきたトゥクトゥク運転手に目的の安宿街まで送ってもらうよう頼むことにした。しかし、これがめんどくさい出来事に巻き込まれるキッカケになってしまった。
ぼくはドライバーに安宿街まで送るように英語で依頼すると、インド訛りの英語で了承してくれた。値段とか細かいことはどうだったか忘れたけど、「とりあえず目的地へ早く行って、すぐ寝られたらいいやー」くらいに思っていた気がする。
(ネットで拾ったトゥクトゥクの写真)
ぼくは他の国でも何回かトゥクトゥクに乗ったことがあったので、乗ること自体は抵抗なかった。このときはまだ、問題なく安宿街まで辿り着けるとおもっていた。
だが、走り出して数分すると、目の前に大きなフェンスで道がふさがれている場所でトゥクトゥクは止められた。
すると、ドライバーが「いま、テロで道がふさがれている。だから、目的地までは近づけない。」と。
しかも、ぼくたちの周りにチンピラたちが集まってきた。彼らもドライバーと同じように「テロだ」と伝えてきた。
落胆した。「そもそもインドってテロとかあったっけ?」とかおもったけど、ぼくは「じゃあ、ほかの安宿街まで案内してくれ」と頼んだ。
だが、ドライバーは「ほかの安宿街は今から行ける距離にはない。とりあえず泊まれるところへ案内するよ。」と。
おそらくだが、この時点で詐欺師の罠にどっぷりハマっていた。駅前の大勢のドライバーたちも身体を引きずりながら突然ぼくを脅かしてきた脚なしの人も、たぶんグルだったのだろう。
テロ情報などを観光客の耳にふきこみ、「恐怖心」を煽ってトゥクトゥクに誘導することで、逃げ道をなくさせるという作戦だろう。
ぼくは、なんとなく詐欺師たちの作戦には気付き始めたものの、止まっているトゥクトゥクのまわりにはチンピラたちが集まっていて、走って逃げることもできなさそうなので、ドライバーのいう泊まれるところへ案内してもらうことにした。
割と長く感じるトゥクトゥク移動をへて、たどり着いたのは旅行代理店だった。ゲストハウスでもホテルでもなく、全然泊まれない場所だった。なんなら、ぼくは宿泊場所でもない代理店に入って、そこのスタッフにソファを指差しながら「ここで寝させてほしい」と頼んでみたりもした。もちろん、受け入れてくれなかった。なぜなら、彼らも詐欺野郎たちのグルだからだ。当然、泊めさせてくれなかった。
(よくみる旅行代理店、こんな感じ)
一応、そこのスタッフにゲストハウスの場所とかを聞いてみるものの、「そんなものは近くにない」の一点張りで、それどころか高額の観光ツアーと、高額のホテルを案内してくる。案内するホテルなら近くにあってすぐに泊まれると。彼はとても優しい口調で話し、しかもおいしい飲み物とか用意してくれ、おもてなしは素晴らしかった。しかし、やっていることは完全に"詐欺師"だった。もちろん、ぼくは断った。
「なんだこの茶番は?」とおもいながら代理店を出て、ぼくはさっきのドライバーのところに戻り、「別のところへ案内してほしい」とお願いし、ふたたび移動することに。
すると、また似たような旅行代理店に案内され、代理店のスタッフと似たようなやり取りをした。そんな感じの堂々巡りを3回くらいした。旅行代理店を4軒まわった。さすがにイライラした。
おそらくトゥクトゥク運転手は、観光客のメンタルがへし折れるまで高額旅行代理店を案内し続けるという手法で、観光客の金を落とさせることを日常的にやっているのだろう。
だが、ぼくはなかなかへし折れようとしなかったので、それに痺れを切らしたのか、ドライバーが5軒目に案内したのは、代理店ではなくホテルだった。このとき、すでに夜中2時をまわっていた。「ここなら安く泊まれるよー」とドライバーに言われたので、疑いながらもトゥクトゥクを降り、ホテルのエントランスまで行き、ホテルマンに値段を聞いてみた。
予想はしていたが、宿泊代を聞いてみると完全にぼったくりの金額だった。泊まるつもりだった安宿相場の20倍の金額だった。ぼくは「もうトゥクトゥク野郎には頼らん!外は危ないかもしれんけど歩いて泊まるところみつける!それか朝まで歩く!」とおもって、勢いよくホテルを出た。
ぼくは、ホテルの外で待機していたトゥクトゥク野郎に、「もうお前には頼らん!」といって、最初に交渉した通りの運賃を渡し、彼から離れようとした。
すると、彼は、離れようとするぼくの腕をつかみ、「支払いが少なすぎるやろ!何軒案内したとおもっとるねん!」と怒りながらぼくの足を止めてきた。
ぼくからすれば不当に何軒も案内され、振り回され、むしろ一銭も払いたくないとおもっていた中で交渉の金額通りを払っていたので、「おまえが勝手に案内したんやろ!それ以上払わんわ!」と、ぼくはキレ返した。
そのあとも数分間同じようなやりとりをした。ぼくもドライバーも完全に怒ってしまい、口喧嘩になってしまった。そして、しばらくすると、ぼくは長旅の疲れも相まって、とうとうブチギレてしまった。なんと、ぼくはトゥクトゥク詐欺野郎の胸をおもいっきり両手で突き飛ばしてしまった。そして、ぼくに突き飛ばされた詐欺野郎も声を荒げて、ぼくに同じことをやり返してこようとした。
と、その瞬間に、さっきのホテルのエントランスからスタッフが「何事や?」という感じで外に出てきた。ぼくたちの声が聞こえていたのだろう。「なにをやっとるんや!」とぼくたちの近くまで寄ってきた。
ぼくは、詐欺野郎に散々振り回された挙句、高額料金を請求されたことを話した。
すると、なんとそのスタッフも両手で詐欺野郎の胸を突き飛ばし、「出て行け!どっかいけ!」とさけび、詐欺野郎を追い払ってくれた。
実は、ホテルマンは詐欺野郎たちのグルではなかったらしく、ぼくの味方をしてくれた。だいぶ助けられた。
ぼくは詐欺野郎を追っ払ってもらい、とても安心した。そんなぼくにホテルマンは「半額にするから泊まるか?」と聞いてきたので、即答で「泊まる」と答えた。助けてくれたうえに、泊めてくれると。ぼくはホテルマンのことを神様かとおもった。
だが、冷静に考えると、元値が異常に高かったので、半額金額でも全然高い。想定していた安宿相場の10倍ぐらいの値段した。しかも、ホテルのクオリティは低かった。
ぼくは3時間以上もトゥクトゥク野郎と格闘し、支払いを粘り強く拒否し、最後は追っ払うことに成功したが、最後の最後でガッツリかもられた。ホテルマンが1番優秀な詐欺師だった。