狩るか狩られるかの世界において、“何もしない”という状態を作ることは非常にリスクがあります。
しかし人間も含めて動物の多くは睡眠によってその行動をせざるを得ません。
食欲、性欲、睡眠欲という三大欲求の中でも最も争いにくく、人はしばらく食べなくても、しばらく性行為をしなくても生きていくことができますが、それらと同じ期間“眠らない”というのは不可能です。
どんなに強い動物でも無防備を晒す“睡眠”という習性ですが、一体なぜ寝ることが必要なのかは正確には分かっていません。
一説には、脳の中の老廃物を排出するための行為とも言われていますが、なぜ老廃物が溜まるのか……。
今回は、そんな睡眠の深い謎に迫る一つの研究に注目した研究まとめです。
参考記事)
・Hidden Waves Wash Fluid Through The Brain While You Sleep(2024/03/09)
参考研究)
・Neuronal dynamics direct cerebrospinal fluid perfusion and brain clearance(2024/02/28)
ワシントン大学によるマウスを対象とした実験によって、脳が作り出す特定の周波数が、老廃物を洗い流す作用と関係がある可能性が高いことが発見されました。
脳は日中にエネルギーを消費し、栄養素を吸収する際に老廃物を生成します。
この老廃物の処理は“グリンファティックシステム”と呼ばれるプロセスによって行われ、中枢神経系に溜まった老廃物を、星状膠細胞の働きにより脳脊髄液と共に除去します。(アルツハイマー病等の変性疾患に関連する異常蓄積蛋白もこのプロセスによって除去されると考えられている)
この研究のポイントは、脳波によってこの脳脊髄液の浄化作用が促進されるということです。
また、脳波の高さや振幅の大きさに比例し、脳脊髄液をより強力に動かすことができることも発見されました。
ワシントン大学の神経科学者ジョナサン・キプニス氏は、「睡眠は、起きているときに蓄積した老廃物や毒素を脳が洗い流すための時間であることは分かっていた、しかし、それがどのようにして起こるのかは分からなかった」と述べています。
研究者たちはこれまで、睡眠中に現れる脳波は、脳の入力されるものの認知から記憶の定着に至るまであらゆるものに関連していることを把握しながらも、その実態を捉えることはできていませんでした。
今回の研究は、これらの脳の振動パターンが脳内の整理整頓にも大きな役割を果たしていることを示し、睡眠のメカニズム解明に一歩近づくものと期待されています。
今後、科学者がこの活動をコントロールできる段階に到達できれば、アルツハイマーやパーキンソン病など脳を攻撃する病気に対する新しい治療法が見つかる可能性があります。
また、脳の病気と戦うだけではなく、私たちが効率的に眠るために方法も判明するかもしれません。
“睡眠”という行為は、私たちが寝ている間に見る夢のように、不確かで未知の世界なのだと認識させられます。
この研究は、Natureにて確認することができます。