どれだけ注意しても忘れ物をしてしまう、じっとしていないといけないのに貧乏ゆすりや席を立ってしまう……。
注意欠乏や多動性など、いわゆるADHDと呼ばれる神経発達症群のひとつです。
人によって程度の差はあれど、周りと違う行動をしてしまうことに苦しんでいる人もいます。
年齢を重ねるに連れて症状が落ち着くとされているADHDですが、成人でこの症状を抱える人は健康面でのリスクがある可能性が示唆されました。
今回はそんな成人のADHDと認知症についてのお話です。
参考記事)
・Adults With ADHD at Greater Risk of Dementia, Study Shows(2023/10/24)
参考研究)
・Adult Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder and the Risk of Dementia(2023/10/17)
イスラエルと米国の研究機関の研究者らによると、注意欠陥・多動性障害(ADHD)と診断された成人は、認知症になる可能性が3倍近く高いことが明らかになりました。
研究ではADHDの疾患の無い患者も含め、109,218人の成人を17年間にわたって調査しました。
その結果、ADHDの診断を受けた被験者の13.2%が研究期間中に認知症を発症したのに対し、ADHDの診断を受けていない被験者の7%は認知症を発症しませんでした。
心臓疾患などの潜在的要因も考慮し、認知症の発症の早さも考慮して計算した結果、ADHDの人はアルツハイマー病を含む認知症を発症する可能性が2.77倍高いという結論が見えてきました。
ラトガース大学の神経学者ミハエル・シュナイダー・ビーリ氏は、「ADHDの成人が認知症のリスクが高いかどうか、また、薬物療法や生活習慣の変化がリスクに影響するかどうかを明らかにすることで、介護者や臨床医により良い情報を提供できるだろう」と述べています。
この研究は、認知症の引き金となる神経学的メカニズムに関する新たな見方を提供するだけでなく、予防措置も講じることが可能と科学者らは考えています。
また、より大きな認知症のリスクを抱える可能性のある人々を特定するのにも役立つかもしれません。
研究の対象となったアメリカでは、成人のおよそ3パーセント以上がADHDと診断されています。
ADHDは注意力、運動、衝動のコントロールに影響を及ぼしますが、研究者らは、関連する神経学的なプロセスが、後年の認知機能低下から脳を守る能力にまでも影響を及ぼす可能性を示唆しています。
このデータは、ADHDが認知症を引き起こすことを直接示すには十分ではないが、何らかの関係があることを強く示唆しています。
ADHDの治療法はその人や年齢によって異なりますが、薬物療法と行動療法を組み合わせることが多いですが、精神刺激薬も服用しているADHDの人たちは、後年認知症になるリスクが高いとは統計的に示されませんでした。
このことは、ADHDの治療法を変えることで認知症のリスクが下がる可能性を示唆しています。
マウントサイナイ大学の脳・行動科学者であるアブラハム・ライヘンバーグ氏は、「高齢者を担当する医師、臨床医、介護者は、ADHDの症状や関連する薬を監視する必要がある」と述べています。
この研究の詳細はJAMA Network Openにて確認できます。