
パーキンソン病は、神経変性疾患の一種で、主に運動機能の低下を引き起こす病気です。
手足の震え(振戦)、筋肉のこわばり(筋強剛)、動作が遅くなる(無動・寡動)、姿勢の不安定さなどが主な症状として現れます。
日本においても、1000人〜1500人に1人という割合で発症するとされ、60歳以上での発症率は100人に1人に及ぶと推定されています。(全国保健協会より)
進行すると、歩行障害や認知機能の低下も引き起こすことがあります。
この病気は、脳内のドーパミンを産生する神経細胞が徐々に減少することによって発症します。
ドーパミンは、運動をスムーズに制御する神経伝達物質ですが、その供給が減ることで、さまざまな運動障害が引き起こされるのです。
現在、パーキンソン病の根本的な治療法は存在しませんが、薬物療法やリハビリテーションによって症状の進行をコントロールすることは可能です。
そんな中、カリフォルニア州のラホーヤ免疫学研究所が近年実施した研究により、パーキンソン病の発症リスクが男性の方が女性よりも2倍高いことが判明しました。
では、なぜ男性のリスクが高いのでしょうか?
本記事では、カリフォルニア州のLa Jolla Institute for Immunologyの研究チームによって明らかにされつつある、パーキンソン病のメカニズムについて紹介します。
参考記事)
・Men Have Higher Risk of Parkinson's, And We May Finally Know Why(2025/03/10)
参考研究)
・PINK1 is a target of T cell responses in Parkinson’s disease(2024/12/17)
研究チームは、パーキンソン病と関連があるとされる複数のタンパク質を調査しました。
注目されたのは、PTEN-induced kinase 1(PINK1)と呼ばれるタンパク質でした。
PINK1は、通常は脳内で細胞のエネルギー利用を調整する役割を果たしており、害のあるものではありません。
しかし、一部のパーキンソン病患者では、免疫システムがPINK1を誤って「敵」とみなし、PINK1を持つ脳細胞を攻撃してしまうことが分かりました。
研究を主導した免疫学者Alessandro Sette氏は、「性別の違いにおけるT細胞の反応は非常に顕著である」と述べています。
この免疫反応が、パーキンソン病の性差を生む要因の一つである可能性が高いと考えられています。
研究チームは、パーキンソン病患者の血液を用い、T細胞がどのタンパク質に強く反応するかを調査しました。
その結果、PINK1が最も強く反応を引き起こすタンパク質であることが明らかになりました。
特に男性のパーキンソン病患者では、PINK1を持つ脳細胞を標的とするT細胞が6倍に増加していたのに対し、女性患者ではわずか0.7倍の増加にとどまりました。
また、同じ研究チームは以前にもα-シヌクレイン(alpha-synuclein)と呼ばれる別のタンパク質についてもT細胞の異常な反応を発見していました。
しかし、その反応はすべてのパーキンソン病患者に共通するものではなかったため、さらなる研究が進められていました。
このような研究では、病気の発症メカニズムが解明されることで、新たな治療法の開発につながることが期待されます。
免疫学者Cecilia Lindestam Arlehamn氏は、「脳内でT細胞がどのように標的を選ぶのかがわかったことで、これらのT細胞を抑制する治療法を開発できる可能性がある」と述べています。
さらに、PINK1に敏感なT細胞を血液検査で検出できるようになれば、パーキンソン病の早期診断につながる可能性もあります。
早期診断が可能になれば、より早い段階での治療や患者へのサポートが実現するでしょう。
現在のところ、パーキンソン病の根本的な治療法は見つかっていません。
しかし、リスク要因の解明が進み、新たなアプローチが次々と生まれています。
「病気の進行や性差について、より広範な分析を行う必要がある。すべての抗原、病気の重症度、発症からの時間を考慮しながら研究を進めることが重要」と、Sette氏は強調しています
・パーキンソン病は、脳内のドーパミン神経細胞が減少することで発症し、運動機能に影響を及ぼす神経変性疾患である
・パーキンソン病の発症リスクは男性の方が2倍高く、その要因の一つとしてPINK1タンパク質に対するT細胞(免疫細胞のひとつ)の異常な反応が関係している可能性がある
・この研究は、新たな治療法の開発や早期診断の可能性を広げる重要な発見と考えられている