さて今回もエル・グレコによる宗教画の紹介です。
1577年頃グレコはスペインのマドリードにいたことが記録されています。
この少し前にローマで多くの知識を得て、画家としての資格も得ていました。
しかし当時神の如く扱われていたミケランジェロの作品を痛烈批判したことによってローマにいられなくなってしまいました。
これが原因かは定かではありませんが、次に向かった先がスペインだったのです。
彼が活動の拠点としたのはトレド。
彼はこの地で教会の保護を受けながら活動し、宗教画の作成や教会の建築に携わるなどして優れた才能を発揮しました。
彼が最も活躍した地でもあります。
そんなスペインでの初仕事として依頼されたのが以下に紹介する“聖衣剥奪”です。
聖衣剥奪
この絵はイエス・キリストの死刑執行前の磔の様子を描いたものです。
十字架にかけられる直前、イエスの衣服が剥がされる様子です。
絵の右側にいる緑の衣服の男は腕にロープをかけながら衣服を脱がせる準備を、右下の黄色の服の男は足を固定しやすくするために木の板に穴を空けています。
背後では「他人は救っているのに、自分は救えないのか。」とイエスを嘲笑するような表情もみてとれます。
そんな周りの騒乱を意に介さず天を仰いで胸に聖なる手を当て、受け入れている様子イエス。
ここでもマニエリスムに特徴的な上下方向に平面的な描き方がされています。
人で埋め尽くされ、視点の定まらない個性的な画風は、グレコの生まれ故郷であるクレタ島のビザンティン風の絵を描いた経験によるものだろうとされています。
3人のマリア
聖書において、福音書も含めるとマリアはなんと10人もいると言われています。
解釈によってはいくつかのマリアは同一人物とされ、3人ほどにまとめることができるという説もあります。
この絵でも三人のマリアが一箇所に固まってイエスの成り行きを見届けるかのように描かれています。
・聖母マリア
イエスの母であるマリア
・マグダラのマリア
イエスの処刑から復活を見届けたマリア
・クロパのマリア
イエスの磔の刑に登場したマリア
しかし依頼主であったトレド大聖堂側は、マルコの福音書に3人のマリアは記されていないとし、不適切であるとして契約金をごねたりと一悶着あったようです。
エル・グレコも適正な報酬を得るために抗議をするつもりでしたが、異端者としての厳しい審問を恐れたため妥協することとなりました。
結果的に大幅に減額された報酬を受け取ることになりましたが、飾られた作品は話題を呼び大成功を収めることになりました。