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陶磁器史の立役者 2人のジョサイア ~スポード①~

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  • 2023/03/19 15:01

  

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前回の記事では、ボーンチャイナの発祥についてお伝えしていきました。

  

今回は、ボーンチャイナ商業レベルまで発展させた窯スポードについてのお話です。

  

マイセンやロイヤルコペンハーゲンなどと比べると日本では聞きなれない名前かと思いますが、スポートもヨーロッパ陶磁器の歴史の中を生き抜いた名窯です。

  

そんなスポードの歴史についてまとめていきます。

  

 

スポード窯の歴史

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ジョサイア・スポード(1733~1797)

  

スポードは、1770年に陶芸家のジョサイア・スポードによって立ち上げられた窯から発展したブランドです。

 

創業者のジョサイア・スポードは、1733年、スタッフォードシャーのフェントンに生まれました。

  

彼は6歳の時に父を亡くし、家が裕福ではなかったことから、幼い頃から働き手として陶芸工房を手伝いながら育っていきました。

  

16歳になると、地元で有名だったトーマス・ウィールドンの工房で働き始めます。

  

そこで5年間陶器の修行を積んだ頃、ウェッジウッドの創業者であるジョサイア・ウェッジウッドが、共同経営者として工房に迎え入れられます。

 

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3歳年上のウェッジウッドの活躍に刺激を受けたか、まもなくウィールドンの工房を去り、その後、は様々な窯を転々とします。

  

その間ウェッジウッドは、焼き物の中心地であったストーク・オン・トレントのエトルリアにてウェッジウッド窯を設立。(1759年)

  

スポードもそこから遅れること11年の1770年に、同じくストーク・オン・トレントのストークにてスポード窯を開きます。

  

お互い競合ではありながらも、かつて同じ窯で働いた同業者として認識し合っていたこともあり、2人の関係は良好だったそうです。

  

1773年頃、中国の貿易制限によって陶磁器の輸入量が激減しました。

  

しかし、王侯貴族からの依頼は同じように減ることはありません。

  

また、当時イギリスではドイツで作られていたような硬質磁器の製造方法が確立しておらず、各窯がその製造方法を探求している頃でもありました。

 

1776年、スポードにある話が舞い込んできます。

  

かつて働いていたバンクス窯の経営権を譲るという話です。

  

ストーク・オン・トレントで窯を経営するということは、競合も多く、並の技術力では淘汰されてしまうという登竜門に挑むということでもありました。

  

淘汰される直前まで追い込まれたバンクス窯が、後釜として選んだ人物がスポードでした。

  

スポードは格安で経営権を買い取り、クリームウェアやパールウェアの製造を始めます。 

  

この頃には経営が波に乗り、その2年後には息子のスポード2世ロンドンの小売店ショールームの運営を任せるようになります。

  

  

ネオクラシカル時代

18世紀末になると、ポンペイ遺跡で古代ローマの美術や文化が発見されたことで新古典主義(ネオクラシカル)時代が到来します。

  

ウェッジウッドは、遺跡の発掘をモチーフにローマ神話のデザインをいち早く取り入れたジャスパーウェアを作り上げ、セレブの間で一躍人気となります。

  

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ウェッジウッド ジャスパーウェア

  

スポートもこれを取り入れようともしましたが、この時窯が得意としていたのは、ブルー&ホワイトをふんだんに使った、東洋モチーフであるシノワズリ様式でした。

  

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スポード ブルーイタリアン (プレートの外側の柄がシノワズリ調)

  

一からネオクラシカル様式を生産しようとするには莫大なコストがかかってしまいます。

 

結局スポードは時代の波に乗れず、売上は低迷してしまいます。

  

そんな彼を救ったのは、競合であるはずのウェッジウッドでした。

  

ジョサイア・ウェッジウッドはスポードにこうアドバイスしました。

 

「今は上流階級の人々はネオクラシカル時代に目がない。しかし中産階級の人々は、上流階級の憧れからシノワズリ様式のブルー&ホワイトを求めている。ブルー&ホワイトの食器は、君が生きてるうちには廃れないだろう」

  

産業革命によって中産階級の富も数も多くなったこの頃の時代背景を、ウェッジウッドは俯瞰的に分析していたようです。

  

彼が言った通り、中産階級の人々は上流階級がたしなんでいたティータイムや食器に憧れを抱き、自分たちもそれを真似たいと考えて行動することがトレンドでした。

  

また、イギリスにおける茶の輸入量は年々増加し、茶製品の減税などもあり、お茶の文化ら上流階級以外でも気軽に楽しめるものとなっていました。

  

スポーツはウェッジウッドの助言から、中産階級をターゲットに絞って製造を始めます。

  

上流階級よりもはるかに多い中産階級や労働者に対してどのように商品を提供するか。

  

その結果考えられたのが、“銅板転写技術”でした。

  

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初期の銅板と転写された紙

  

銅板転写は、デザインが彫刻された銅板にインクを塗って薄紙に印刷

  

その薄紙を素焼きにした陶磁器に貼りつけて転写する手法です。

  

これによって、ハンドペイントよりも短時間で大量の生産が可能になり、コストが大幅に削減可能になりました。

  

これによってスポード窯の経営は改善。

  

銅板転写技術を得たスポードは、ストーク・オン・トレントをを代表する窯へのし上がっていくのです。

 

……と言いたいところですが、1797年には創設者であるスポード(1世)が亡くなってしまいます。

  

彼の後を継いだのは、ロンドンのショールームを運営していた彼の息子スポード2世です。

 

次回、初代スポード亡き後のスポード窯についてまとめていきます。

 

  

まとめ

・スポード窯=1770年にジョサイア・スポードによって立ち上げられた窯

・スポードはウェッジウッドとも交流があり、お互いに良好な関係を保っていた

・ウェッジウッドの助言から経営難を脱出

・銅板転写技法を携えて新たなステージへ

  

さて、ここまでで初代スポードから始まったスポード窯についてのまとめてきました。

  

同じジョサイアの名を持つウェッジウッドに、少なからず影響を受けたと見受けられますね。

  

しかし、最後は己の窯独自の技術を生み出し、ストーク・オン・トレントにて成功を収めたことから、並みの経営手腕ではなかったようです。

  

次回はそんな父のもとで育ったジョサイア・スポード2世についてのお話。

  

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ジョサイア・スポード二世

  

彼が継いだスポード窯はどのようになっていくのか。

 

スポードの歴史の続きに迫ります。

 

 

 

 

 

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