成長すると優雅に飛び回る蝶や蛾ですが、変態前の幼虫には毒針毛(どくしんもう)や毒棘(どくきょく)といった、毒を持つことで外敵から身を守る者もいます。
中には強力な毒によって人間に致命的な効果を及ぼすものもいます。
今回はそんな毒毛虫の一つでもある“フランネル・モス”についての研究を紹介します。
参考記事)
・This Fuzzy Caterpillar Conceals a Venom Unlike Any Ever Seen in Insects(2023/07/21)
参考研究)
・Horizontal gene transfer underlies the painful stings of asp caterpillars (Lepidoptera: Megalopygidae)(2023/07/10)
オーストラリア クイーンズランド大学による研究によると、この猫の毛を生やしたような芋虫は、古代の微生物の助けを借りて、毒を進化させた可能性があるという結果が報告されています。
彼らの分析では、進化の過程で遺伝子の水平移動と呼ばれるプロセスにより毒素の配列がバクテリアから昆虫に移った可能性があると述べています。
フランネル・モスという猛毒を持つ芋虫の毒について多くの事が謎に包まれていますが、その分子的な構造は、我々にとって驚く程有益なものである可能性があります。
彼らのフサフサの毛の下に毒針があり、この毒針に触れると即座に強烈な焼けるような痛みを引き起こします。
この毒を経験した者はみな、「バッドで殴られたような痛み」、「炭火の上を歩いたような痛み」など過去に経験したことのない強い痛みを表現しています。
近年、蜘蛛や蛇の毒の分析によって新薬が生み出されるなど、いくつかの動物の毒が人間にとって有用であることが証明され、現在ではその力を有効活用する研究分野が拡大しています。
毛虫の毒はこれまで比較的注目されてきませんでした。
今回の研究は、その毒が我々にどんなメリットがあるのかを解明する研究でもあります。
特にミナミハナノメイガとクロスハナノメイガという2種類の蛾に焦点を当て、毒の作用機序や化学的性質を調べました。
彼らは近縁の毒どくを持つ毛虫だけではなく、一般的な昆虫とも大きく異なる毒を持っていることが分かりました。
クイーンズランドの分子昆虫学者アンドリュー・ウォーカー氏は、「この毛虫の毒の奇妙さは、他の昆虫の毒から独立して進化したことを裏付けている」と述べています。
毒をさらに詳しく調べてみると、細菌毒素の一部と非常によく似ているタンパク質が見つかりました。
具体的には、aspイモムシ(フランネル・モスら毒を持つイモムシ)の毒は、細胞表面に結合し、ドーナツ状の構造体となって標的細胞に穴を開ける細菌毒素の一種に似ていると研究者たちは説明しています。
生物は通常、親から子の世代へと垂直的な方法で遺伝子を子孫に受け継がせますが、バクテリアファジーの感染や種の異なる細菌の結合などにより、稀に種を超えて遺伝子が受け継がれることがあります。
ウォーカー氏ら研究者たちは、aspイモムシの僕の主成分はバクテリアが彼らの朝鮮に水平移動させた遺伝子から毒素として取り込んだと考えています。
ウォーカー氏は、「これらの毛虫の毒は、4億年以上前にバクテリアから遺伝子を受け継いで進化したものだ」と述べています。
相棒に穴を開ける作用がある彼ら毒毛虫の毒は、捕食者を苦しめるだけではなく医療の現場で役立つ可能性があります。
細胞に穴を開ける毒素は、体内に侵入する能力が高いため、薬剤を体の中に浸透させるという点で大きな能力を秘めています。
健康な細胞に有益な薬剤を投与したり、がん細胞を選択的に殺傷するように分子を設計することができるかもしれません。
多くの花や蝶の幼虫は捕食者に対する高度な防御策を発達させており、それらがどのように発達してきたのかを含め、今後の研究に期待が持たれています。
この研究は、PNASにて詳細を確認することができます。