運動は心身の健康だけでなく脳の健康までをも司るということは、これまでの研究でも多く示されています。
今回もそういった運動と脳の関係についてのお話です。
マウスによる研究にて、運動によって生じる血液中のタンパク質が脳の認知機能を回復させることを発見しました。
参考記事)
・Blood Protein Might Explain Why Exercise Keeps Our Brains Young(2023/08/17)
参考研究)
アメリカのカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)とオーストラリアのクイーンズランド大学の2つのチームによって行われた研究では、血小板第4因子(Platelet factor 4)精神的な高揚、輸血の利点、長寿に関連するタンパク質と関連していることを発見しました。
血小板は血液凝固において重要な役割を果たす細胞片です。
出血を食い止める物理的な栓の役割を果たすだけでなく、この小さな骨髄細胞の塊は、凝集を促進する化学物質を放出することでも知られています。
これらの因子の一つとして、PF4というタンパク質が傷害や感染に対する免疫系と反応していることが挙げられます。
近年の研究によると、このタンパク質は、脳、肝臓、腎臓に大量に発現している酵素(抗老化ホルモン:クロトー)と反応し、抗老化メカニズムにも一役買っていることが明らかになっているとも考えられています。
UCSFの解剖学者ソール・ヴィレダ氏は、「若い血液、クロトー、そして運動は、何らかの形で脳に“機能を向上させろ”と伝えることができる」と述べています。
血液に関する研究では、年老いたマウスにPF4を注射したところ、年をとるにつれて起こる劣化の一部を逆転させることも明らかになっています。
人間や動物の若い血液にはPF4が多いという特徴にも関連しており、この血小板因子と若返りとの関係性が示唆されています。
クロトーには以前から認知機能を高めることが認められています。
若いマウスも老齢のマウスも、クロトーを注射すると行動テストによるスコアが改善し、その後PF4が放出されたことが分かりました。
その結果、脳が記憶を作る場所である海馬での新しい結合の形成が促進され、認知機能が改善する結果も得られました。
さらに運動したマウスは、血液中のPF4のレベルが高いことが分かりました。
PF4は新しい脳細胞の生成に一役買っていることも観察され、高齢のマウスの記憶機能も改善したという結果が得られています。
運動が脳へ良い影響を及ぼすことはすでに知られていますが、PF4がその役割を果たしているように見えます。
将来的には、通常の方法で活動することができない人々に運動の恩恵をもたらす治療法が開発されるかもしれないと、今後の研究に期待が持たれています。
この研究はNature Communicationsにて確認することができます。