ひとみさんから恐怖メールを受け取った翌日、気乗りしないままひとみ女子会に向かうMALIS。もう一人の参加者ミキさんは日系商社勤務のドS。話が面白く、ついつい聞き入ってしまうのだった。(前回)
「ひとみさん、ありがとう!次は私がお店探すからまた集まりましょう!」
ミキさんが声をかけてくださる。
「いえいえこちらこそ!また会いましょう!」
わーい、日本人の輪が広がるぞ!歓喜するMALIS。大満足の私たちは、すっかり暗くなったマンハッタンに消えていくのであった。
第2回女子会は、開かれなかった。
学校もなく、家でぼんやりしていたある日。
「MALISさん、お時間あったらランチいかない?」
ミキさんからのメッセージだ。
え、2人でですか?ええ、もちろん。
呼び出された先は、国連ビルが見えるイーストリバー沿いのレストラン。
こんなところにレストランがあるなんて知らなかった。眺めも良い。解放感のある素敵な場所だ。
運ばれてきたガスパチョ、お花入ってるんですけど!
一人だとクロワッサンを食べながらパソコンと睨めっこの貧相なランチ、静かにテンションがあがるMALIS。なんか、、、ニューヨークっぽいことしてる!
「あの、いいにくいんだけど」
ミキさんが切り出す。
「私、ひとみさんに嫌われたみたいで」
え?
スープを運ぶ手が止まる。
それは、デジャブすら感じる経緯、
楽しいトルコ料理会の翌日の話だ。
ミキさんが職場から帰り、食事を整え待っていた彼氏に「やればできるじゃないの」と女王様のひとかけらのアメを与えていた時だ。
ひとみさんから、メッセージが届いたのだ。もちろんお決まりの画面からはみ出す長文メッセージ×5、略して「呪いのひとみメール」だ。ドSのミキさんにまで届けるとは、ひとみ恐るべし。
内容は、いかにミキさんがダメで失礼な人間であるか。
・ 私が年長者にもかかわらず
・ 話を遮り無視し
・ 自分の話を押し付け
・ 人を傷つける発言を繰り返す
・ お前なんか最低のくずだ
という極めてアグレッシブな内容であった。
「私もここまで言われる筋はないと思うんだけど、、、MALISちゃんからはどう見えてた? 心配になっちゃって」
どう見えてたって、、、ものすごく面白いお話してくださってましたが?
しかしドSとはいえミキさん普通の人。そりゃこんな呪いのメール見たら傷つくし、何より怖すぎる。
デザートの可愛らしさが、このどんよりした気持ちを幾分か和ませてくれる。
パンナコッタ。お花が入っているのはもはや正義だな。薄くスライスされたマンゴーも最高においしいし。デザートだけでもまた来たい。
「そんなわけで、ちょっと疲れちゃって」
ええ、私もすっかり疲れました。しばらく日系コミュニティからは疎遠にさせていただきます。。。
言葉少なげにお店を出たのであった。
地下鉄に乗り込む。
一体、ひとみさんは何がしたかったのか。
一体、何が気に食わなかったのか。
ミキさんには言わなかったが、おそらく夫氏と同じく商社勤務の女性がエリート駐在員を馬鹿にしていたのが許せなかったのだろう。って、会社は違うしひとみ夫氏を馬鹿にしたわけでもあるまいしって思うんだが、、、そういう人も世の中にはいるんだな。
生きづらくないのだろうかーー。
少し心配にもなる。
疲れた頭で考えながら図書館に向かう。
「あ、MALISさんだ」
ちょうどよかった!と声をかけてくるのはあの好印象日本人。
「僕、明日から日本に一時帰国するんです」
よかったら、ちょっとお茶しません?
しましょう!まともな日本人よ!!!
コーヒーを飲みながら、MALISの恐怖体験を聞く好青年。
「それ、、、西の魔女じゃないですか?」
げほっっっ
いきなりのパワーワードにむせかえる。
に、西の魔女!?
「いやー有名な方ですよ、ご存じないですか?」
いやむしろなんであんた知ってんの!?
好青年のアンテナの高さ、半端ない。さすがアイビーリーグ(アメリカの超トップスクール)狙ってるだけある。
しばし好青年からレクチャーを受ける。なんでも、ほんわかした大和撫子の風貌をもって駐在員コミュニティを破壊し、若い奥様方を恐怖におとしいれ、挙句の果ては会社にまで怒鳴りこんだアッパーウェストの伝説的駐妻。すべての条件が一致するぜ。
「てかMALISさん、友達少なくない?」
ニューヨーク戻ってきたら紹介しますよ!
ぐさっとくる一言だが本当なので仕方ない。それより好青年紹介の友達なら信頼できる。何せ全身で信頼を可視化している男だ。
ああ、よかった。
少し間違えただけだ。
パンドラの箱にうっかり触れてしまったのだ。
しかしこれで大丈夫、われらが好青年に偶然会ったことで魔女の呪いが吹き飛んだ気がする。人が持つ”気”ってのは大事だ。
いいか?
人生に必要なのは、
まともな人を紹介してくれる、
暖かい心を持つ友人だ。
一部上場企業勤務は魔女の夫の条件にはなるかもしれない。しかし特にそれ以上の価値は提供してくれない。
ああ、麗しの駐妻コミュニティ。
数か月後、西の魔女はアフリカに転勤になった。会社に怒鳴り込んだのが夫の処遇に響いたのではないか、というのがもっぱらの噂。
その後、好青年の手引きのもと素敵なカフェでNaottaさんに出会うことになるのは、また別の話。
(完)
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません
<今日の舞台>
マンハッタンの東端、イーストリバー沿いにあるコンテンポラリーアメリカン。アクセスがあまりよくないのだが、お料理が超絶綺麗なのと誰もが好きな味付けで安心感を提供してくれるレストラン。
住所:450 E 29th St, New York, NY 10016
MALIS
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