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「パッケージ利用で半額にならないかねぇ」
ここは汐留の個室居酒屋。
システム開発の予算感を探ろうと接待をひらく某IT企業の営業課長、告げられた言葉に箸を止める。
「またまた~」
無理につくる笑顔がひきつる。
半額、だと?
何を言っているのだ、この顧客はーー?
時は某年7月。
私は営業事業部に課長として配属された。
初めて取り組むシステム開発の営業。
当然、気合十分だ。
システム開発というと、ひたすらプログラミングをしているように思われるが、当然営業も大事なフェーズだ。
営業フェーズは通常、お伺い営業を繰り返した後
・顧客がシステム化計画を作成し
・提案依頼書が出され
・コンペでSIerが選ばれ
・契約締結
という流れになる。
SIerにとって大事なのは勿論、コンペで選ばれること。
では何が決め手になるのか?
いろんな要素があるのだけど、残念ながら決め手になりがちなのは
そう、コスト(※)なんだ、、、だから、高い接待費用を払ってまでコスト感を探りにきたんだ。なのに、半額だなんて、、、
「まいったな・・・」
かくして私は頭を抱える。
今回の案件はすでに事業部会議にもかけた。受注確率の極めて高い案件です! と報告してしまったのに。
「半額だろうと、失注するわけには・・・」
顧客の言葉を思い出す。
「ほら、あのパッケージソフト」
「他社もみんな導入してるって聞いたぞ」
「おたくでもできるよね?提案してくれよ」
気のせいか、新橋駅の喧騒が遠く感じる。
軽く頭を振る。
これは勝負だ。
勝負の時なんだ。
翌日、営業部門で緊急会議が開かれた。
コスト抑制マジックのラインナップは様々だが、今回は顧客の意向もある。
よーし、決めたぞ、私は決めた!
・パッケージソフトの導入
・開発範囲の限定
これでいくしかない!
開発要員も削減できるだろう、見えてきたぞ、受注が!
「パッケージの導入」(※)とは、あらかじめ作られたソフトウェアパッケージを利用することで、開発にかかる手間を抑えるというもの。
例えるなら、
オーダーメイドのスーツ
↓
既成スーツ+お直し
に変えるようなもの。
「布の種類もデザインも限られます、でも細やかなお直しは対応させていただきますからいかがですか?大幅にお安くなりますよ?」
ということだ。
同席したSEはなんかわめいていたな。
てゆっかさ、あいつら心配性の根暗軍団だしな。だから売上げが立たないんだよ。数字作れない奴らは黙ってろよ。
かくして顧客への説明会が開かれる。
もちろんパッケージ利用のネガティブな面もちゃんと伝える。開発範囲も限定させていただき、費用をさらに抑えた。
布は自由に選べない
ボタンの種類は決まっている
靴とベルトはセットじゃないよーー。
「出来ない箇所」は伝えておかないと。
これが誠意ある営業ってもんだ。
しかし、この時の私は知らなかった。
顧客の「特性」を。
最も大切な「特性」を。
MALIS
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※コスト
システムはとかくコスト削減のツールとして使われがち。さらにシステムは「開発が終わらないとよくわからないもの」だ。モノを売るように「どうぞまずは使ってみてください!」なんてわけにはいかない。投資には慎重になりがちだ。
特に、発注する顧客(情報システム部門)のIT知識が乏しい場合は、コストをひたすら叩く傾向が顕著になる。
※パッケージソフト
顧客側が、特定のパッケージソフトを使いたい、と言い出すことは多い。流行りのパッケージソフトを使い社内でシステム化企画を通すのは、顧客にとっての一種のステイタスなのだろうか。