先日(7/13)、東京大学で行われた「SDGsとネットワーク・ガバナンス — データ駆動型イノベーションの可能性と課題」に参加してきました。
登壇者は
講師: 鎗目雅 (香港科学技術大学 教授)
コメンテーター:
山本芳幸 (元 国連エンゲージメント・ブロックチェーン技術特別顧問)
野田真里 (茨城大学 准教授)
甲木浩太郎 (外務省 地球規模課題総括課長)
※発表順
司会:佐藤安信(東京大学大学院 教授)
早速どんな様子だったかみてみましょう!
まずは講師の鎗目教授より、SDGsとデータ駆動型イノベーションの全体像について説明です。要点だけかいつまんでご紹介します。(流れは若干変わってしまっているかもです)
槍目教授は、データ駆動型イノベーションは3つのレイヤーでとらえることができると解説
- Data(データそのもの)
- Data Science(データ分析、抽出)
- Data Expertise(得られた知見の活用)
これらをSDGsに活かした例は多くありますよね。気候変動の分析・可視化による農作物の収穫向上、エネルギー源の分布分析、難民の移動予測、、、
ただ、これら取組に必ず必要なのは入り口となる「データそのものの取得」。 鎗目教授からは、データ供給者の提供物がニーズと合致していない例が多く、データ供給者といかに連携するか、オープンデータをどう進めるかが重要との指摘がありました。
日本でも報道されている通り、IoT、5G、AI、ブロックチェーン、ドローン、、といった先端分野では、米中が強い。日本は後れを取っている状況ですね。
特に発展が目覚ましいのが中国。
すでに中国がトップを走る分野もある。
では中国はなぜ強いのか?
よく言われるのは、中国は圧倒的な人口を持ち、かつ監視社会であるため使えるデータ量が多く有利であるということ。
しかし、本当にそうでしょうか?
鎗目教授によると、データ取得だけでなく、データを分析・活用するための人員・設備面への大きな投資も要因とのこと。確かに。例えばAIなんて、日本とは投資額が数桁違いますもんね。
そんな中国も力を入れているのがスマートシティ。
「スマートシティ」とは、先端技術を駆使して街全体の効率化を図っている地域、またはそのプロジェクトを指す言葉。
以前は「環境配慮型都市」を指すことが多かったのですが、最近の事例では環境問題に加えて都市のデジタル化による市民生活の向上、といった側面が大きくなっています。まさに、サイバーフィジカルの分野ですね。
さらに!
近年はスマートシティのような都市設計ではなく、「リビングラボ」と呼ばれる「街を実験場とした課題解決の取り組み」が盛んになっています。Google親会社による「Alphabet's Sidewalk」や、中国アリババによる杭州の「City Brain」が有名ですね。
ここでブロックチェーン技術についても言及。
スマートシティの流れだったためか、主にP2P電力取引等の紹介でした。たしかに、スマートシティ、リビングラボなどでは必須か?ってくらい聞きますね。
となると問題になってくるのがデータプロテクション。
この問題は今や地域に閉ざしたものだけではなく、国際的なデータフローをめぐる国家間の交渉に発展しています。
アメリカのGAFAがデータを集中的に牛耳っているのも昨今大きな問題になっていますよね。対する中国は、国内はがちがちに情報統制する一方でデジタルOBOR(一帯一路)で国外に攻め込んでいます。欧州はGDPR(EU一般データ保護規則)で規制を強化。
本問題に対し、日本はG20で「Data Free Flow with Trust」を掲げましたが、何をもってTrustなのか?については明確にしていませんね(恐らく出来ないでしょう)。
では、プライバシーやデータオーナーシップの問題をクリアしながら、いかにオープンイノベーションをおこしていけばよいのでしょうか?
この課題へのアプローチの一つが、規制の「サンドボックス」。
サンドボックスとは「砂場」という意味ですが、規制においては特定の領域(物理的エリアまたは法制度適用パターン)の規制を緩和し、イノベーションを促進する取組を指します。
UKから始まった「サンドボックス」、日本でも2018年から制度の本格導入が決定しました。鎗目教授からは、日本では失敗時の責任所在が大きな問題となる、との指摘がありましたが、だからこそ有効な手段ですよね。
ということで、鎗目教授の講義は終了。
このテーマ、広範ですね。。。
次に舞台はNYCへ!
コメンテーターの山本さんがオンラインで登場。NYCは朝6時くらいでしょうか? 写真を撮り忘れましたが、絶妙に眠そうでした。
主なコメントは以下4点。
そもそもデータ駆動型とは何なのか?
データを人が使うのか、それとも使われてしまうのか?
AI社会については様々なSF小説・映画などで描かれてきた"警告"が現実になろうとしています。スマートシティに関しても、圧倒的な量で取得される情報を一体誰が管理するのか、AIなのか、人なのか? たとえ人であったとしても、管理者に絶大なパワーが集中してしまわないか?
つまるところ、データの収集、分析、意思決定と分けた時の3つ目、意思決定においては必ず”誰が意思決定者か”という問題がつきまとう。
意思決定者に権力が集中していいのか?
この倫理的問題にこそ、ブロックチェーンの使い道がある。意思決定に分散性をもたせ、集権的な仕組みを防ぐことができるのではないか?
データ駆動型イノベーションにおいて、5Gは単に”速い”以上の大きなインパクトを与えうる技術。データ収集の質と量が圧倒的に高まっていく。そのようなインパクトをもたらす技術において、一国が抜き出るのは危険ではないだろうか?
日本のような失敗を許さない文化を持つ国にこそ、サンドボックスは有効。日本でも開始されているとのことだが、イノベーション促進にむけて多いに活用すべきだ。
次は野田教授の話、、、
と、ここで!
横から
「あの、もしかしてMariさんですか?」
と尋ね人が!
初めてリアルでお会いしたALISISTAはKazさんでした!それにしてもよくわかりましたね。Kazさんは時間がなくもう帰らないといけないとのことでしたが、なんとビーフジャーキーをくださいました!
さて、野田教授はコメンテーターなのですが、「つくば市ブロックチェーンを用いたネット投票実証実験」についてプレゼンくださいました。
この取り組みですね。
2018年8月にも「つくばSociety 5.0社会実装トライアル支援事業」の最終審査に、ブロックチェーンを用いた投票システムを用いていました。今回はその第2弾。
システム構築はパイプドビッツ、協力企業はVote For、ユニバーサルコンピューターシステム、NEC
。
野田教授のコメントで印象的だったのが、
「なぜNEC達は無償でシステム開発をしてくれたのか、ただより高いものはない、ではないか?」
なのですが、正直なところ私の感想は
「ちょっと理解が追い付かないぞ?」
でした。実証の場で黎明期の技術を用いるシステム開発をできる機会はなかなかありません。今回のような場で、無償で協力する理由は大いにありますよね。野田教授のコメンテーターとしての位置づけを私が理解できていなかったのもあるのですが、、、
とかいいつつ!
私の注意は完全にKazさん贈呈のビーフジャーキーへ。
こっそり袋の中を見たところ、
包装から漂う高級感、、、
Kazさん、本当にいただいてよかったんでしょうか!?
最後に甲木課長のプレゼン。
外務省という立場から、今回の議題であるSDGsに論点を戻してくれたプレゼンテーションだったかと思います。
特に印象に残ったのは、
「データ収集に関しては、集める側と集められる側の対立だけでなく、集める側同士の緊張感もある」
という発言。まさに国家間の競争になろうとしている点ですよね。
また、SDGsへの投資については
「投資についていかにリターンを出していくのかが大切」
と強調されていました。甲木課長は「リターン=社会問題の解決」といった解釈でお話されていましたが、組織によって短期的・長期的に求めるリターンは異なるでしょう。難しい論点だな、、、と私は高級ビーフジャーキーを握りしめながら暫し考え込んでしまいました。
続いてディスカッションタイム。
興味深かった点は2つ。
前述した「意思決定者は誰か? 人か? AIか?」という論点について、簡単に答えが出せる話ではなく、しばし議論が続きます。
そこで出た「AIの判断のもとになる情報がオープンかどうかが重要」とののコメントには多いに共感しました。
AmazonがAIによる採用システムを開発した際の問題をご存じでしょうか? 過去10年間分の履歴書パターンを基にしたところ、対象者が女性だとAIが低い評価をくだしてしまう、という問題が発生。開発がストップしました。図らずも、男性有利な採用を続けてきた過去が露呈してしまったのです。
また、AIによるビューティーコンテストでも、投入したデータに有色人種が少なかったことから、結果として白人ばかりが選出されるという問題が発生しました。
AIは公平ではない、残酷なのです。
例えば今回のカンファレンスでも、登壇された野田教授が「つくば市の投票システム利用者は男女比が8:2で何故かはわかっていない」という説明をしたくだりで
という発言をされました。
こういう発言をサンプリングしてAIに投入し続ければ、個々の能力値の判断以前に、女性の方がITに弱いのでIT職では男性を採用する、といったAIのDecisionに結びつくことは大いにあるでしょう。
この「つくば市の投票システム」についてですが、ディスカッションで出てきた「ブロックチェーンを用いるのはまるで農道をフェラーリで走るようなものだ」という表現がひっかかりました。
市のプロジェクト採択用の投票にブロックチェーンのような高尚なシステムを使うとは、という意味だと思うのですが、、、
例えるならフェラーリじゃなくてLamboだろ?
って突っ込みは置いといてですね、、、
逆じゃないですかね?
オンライン投票システムの正当性を既存の技術で担保しようとした時と比較し、釣り合わないコストが発生するのは果たしてどちらなのか?
今はブロックチェーンという言葉がバズワード状態で、フェラーリのように見えるかもしれません。しかし、今までフェラーリしかなくて、またはフェラーリすら通れなくて苦労していたところに「軽トラ」になりうるブロックチェーンが登場した。
だからこそ、人は熱狂したのではないか?
ブロックチェーンを中心に据えないカンファレンスだからこその議論、大変興味深く聴講しました。
この後、会場からも質問が多く出て盛り上がったのですが時間切れ。あとは懇親会にてとのことでしたが諸事情によりそそくさと会場を後にしました。
と、久々に書いたら詰め込みすぎて長くなりましたが、、、楽しんでいただけたでしょうか? 帰国後のカンファレンス参加は初で、会場の雰囲気含め新鮮でした。さらにKazさんにもお会いすることができ良き場となりました。
ビーフジャーキー食レポは近日公開予定。
それではみなさま、よい一日を!
MALIS