それは突然のことだった。
社長室に呼び出され、年棒の大幅カットを告げられた。
いや、予兆はあったのだ。
プロジェクトはあまりうまくいっていなかった。
それでも、
社内で一番契約を取っていたのは私だった。
その事実に甘えていたわけではないが、
利益に十分貢献をしているという自負はあった。
告げられたのは年棒の減額だけではなかった。
一時間にわたる罵倒。
質が低い、仕事で不正をしている、取引先から苦情が来ている、クライアントの評価も低い、省庁には出入りするな、リクルーティング会社からも採用面接の態度が悪いと聞いている。
実績が怪しいため、月次報告を強化するように。
場合によっては、刑事告訴も考えている。
反論するのも疲れ果て、自席に戻る。
いつの間にか、
部下の席は移動されていた。
予告もないまま私は全チームメンバーを失った。
一体何がどうなっているのか?
明日からどうプロジェクトを遂行するのか?
コンサル会社では、チームメンバーごとに単価が設定されており、その単価をもとに価格提示することが多い。クライアントとの会議に、急に私しか出席しなくなれば、先方から疑問の声が出るのは必至だ。
何より、質を担保する人手が足りない。
メールを開く。
いつも山のようにくる新着メールが、ない。
メーリングリストから外されたと知った。
混乱で仕事に手が付かない。
誰が敵なのか?
誰がまだ味方なのか?
疑心暗鬼が邪魔をして社内で質問すらできなくなる。質が下がる。呼び出される。罵倒される。
完全に悪循環に入っていた。
疲れ果て、もうどうでもよいと早めに切り上げ、帰路についた日。
混雑する中目黒駅で、東横線に乗り換える。
ドアの前に立ち、
全く頭に入ってこない広告を眺めながら
自問自答する。
「なんでコンサルなんだっけ?」
別に、この仕事に深い思い入れがあったわけでもない。
きっかけはあるにはあった気もするが、ただ私は調べ物をして、分析をして、人の話を聞いて、書き物をして、、、その一つ一つが好きなのだ。
それが誰かのためになるなら幸せなことであり、お金がもらえるならありがたいことなのだ。
深い理由はない。
ただ楽しかった、だから続けていたのだ。
それが何だ?このざまは。
いつからこうなったのだ?
そうして、ようやく気が付く。
術中にはまっていた。
「みんなお前のことを嫌っている」
その言葉は呪いのようにはりつき
過剰に他人の評価を気にしだしていた。
部下はどう思っているのか。
いつも優しい秘書はどう思っているのか。
クライアントは評価してくれているのか。
怯えていた。
恐怖心に行動を制限されていた。
そして、それこそがやつの狙いだ。
私をコントロールしようとしているのだ。
悔しさで、涙が止まらない。
あの言葉を聞いた時から、
悪意の塊を向けられた時から、
私はひたすらに嫌われることを怖がっていた。
行動を起こすことをためらっていた。
人の評価ほどコロコロ変わるものはない。
そんなものに貶められている暇などないのに。
心を奪われてまで、ここに居る意味などどこにもなかったのに。
ようやく着いた駅の階段をおりながら、ここが大都会でよかったなぁ、などぼんやりと考える。地元だったら、翌日には町民全員から心配されちゃうよ。
原付の音が聞こえる。
塾帰りの子ども達が歩いてくる。
駅前のスーパーは、まだ明るい。
見慣れない平日の夕暮れに、
あぁ、そうだったなぁ、と思い出す。
そうだった。
自分の価値など、
自分でしか評価できないのだ。
涙を拭い、
誰もいない公園を通り過ぎる。
お腹がすいてたんだっけと思い出す。
少し寄り道をしてもいいかもしれない。
久しぶりに中華でも食べようかなあ。
この時間なら、誰か呼び出せるかも。
スマホを取り出しながら、久しぶりの日常を味わった気がした。
以上、閑話休題でしたー!
すっきり目覚めた翌朝、「あっのクソやろう!ぶっ潰すぞぉぁぁぁ!」と反逆の狼煙をあげる第2章については情緒なきため割愛させていただきます。
MALIS
"心が綺麗な人にだけ、仮想通貨との関連が見えるんだ"
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