8歳の時。
初めて友達の家で、Nゲージという鉄道模型を見せてもらった。
その子の家は、鉄道模型でジオラマが作られていた。
父親が鉄道模型を大人買いして、ジオラマを作ってくれたそうだ。
そのジオラマは、土台は紙粘土だった。
でも、その上には様々な木々や建物が設置されていた。
そして、まるで本物の街が小さくなった様なジオラマだった。
俺は、その鉄道模型のジオラマを見て、もの凄く感動した。
凄くリアルで、そして精巧に作られた木々や街並み。
そんな異次元の世界が、手に触れる事が出来、そして鉄道を動かせる。
本で見た事ある、プラモデルのジオラマが目の前にあった。
俺は、この時まで本物のジオラマなんて見た事が無かった。
そのジオラマが目の前にある事に凄く感動してしまった。
その子は、実際に鉄道模型を動かして見せてくれた。
その鉄道模型は、動くだけではなくきちんと車両の中が照明で照らされる。
まるで本物そっくりな電車だった。
その電車がリアルなジオラマの世界を動き回っていた。
俺は、その光景を見て鉄道模型の虜になってしまった。
その子は、俺にも鉄道模型を操作させてくれた。
その鉄道模型は、本物そっくりな操作感で一筋縄ではいかなかった。
スピードと出しすぎてカーブに入ると脱線してしまう。
トンネル内で脱線したら、車両を取り出すのも大変だった。
駅では、きちんと自動で停車して、数秒後でないと走り出せない。
しかも部屋を暗くすると、きちんと建物や駅や道に照明が点灯した。
そして、リアルなミニチュアの街並みも光り、綺麗な夜景を映し出した。
全てが、本物そっくりな作りで感動して震え上がった。
俺もNゲージで、自分だけの世界を作りたくなってしまった。
その衝動は、男の本能に作用したみたいに忘れる事のない感動になった。
俺は、鉄道模型が欲しくてしょうがなかった。
当時三郷団地に住んでいたのだけど、ここの玩具屋では売ってない。
電車で東京まで行かないと手に入らなかった。
でも、東京まで行けるほどのお金もない。
仕方ないので、本屋で鉄道模型の本を立ち読みして我慢していた。
いつかきっと手に入れる事を夢見て。
そして数か月が過ぎ、8歳の時のお正月。
俺は、親戚や来客の人達からたくさんのお年玉をもらった。
そのお年玉の総額は、1万円位だった。
そして我々家族は、お正月のあいさつ回りに出かけた。
その時、東京に出向く機会もあった。
この時、親にお年玉で鉄道模型が欲しい事を伝えた。
そして、帰りに玩具屋によってもらう事にした。
その玩具屋には、沢山の鉄道模型が置いてあり、さすが東京と超感動した。
行った玩具屋は、銀座の三越。
俺は、この松坂屋でお年玉を全額使い、鉄道模型を買う事にした。
でも、たった1万円だと鉄道模型を買うには、足りな過ぎた。
Nゲージは、想像以上に高いものばかり。
本格的な大人のおもちゃだったからだ。
でも、何とか1万円以内でとりあえず形になる分だけは買う事が出来た。
買えたの物は、円型のレールセット、コントロールユニット、車両2つ。
これだけしか買えなかった。
買った車両は、東海道山陽新幹線の先頭車両と、客車のモーター車。
東海道山陽新幹線は、本来16両編成なのに2両しか買えず凄く残念だった。
さすが大人の本格的なおもちゃだけあって、何でも大人の値段だ。
でも、この時は、夢のNゲージが手に入った事が嬉しくてたまらない。
これが、俺のNゲージデビューだった。
そして家に帰り、Nゲージで遊びまくった。
でも、やっぱりあのジオラマの事が頭から離れない。
俺は、いつかあの時見たジオラマのような世界を作ると決心した。
でも、三郷団地の玩具屋にはNゲージが売ってない。
この時は、Nゲージを買う事を我慢して、お金を貯めるしかなかった。
必ずいつかNゲージを買うチャンスが来ると願って。