「その可愛い子豚たちをもっと右に持って言って!」
ダニエラの甲高い声がブルックリンの工場跡地のスタジオに響く。
ブヒブヒ・・・
集められて撮影用の子豚たちが皆方向を定めずにあっちこっちにトコトコを散らばって言った。
スタッフのメキシコ系の男たちがその豚たちを追いかけていく。
豚たちは首にお揃いの大きなピンクのリボンを掛けててまるでティファニーブルーならぬダニエラピンク。
そう今日の物語は以前のダニエラの物語の番外編だ。
過去のダニエラの物語はこちら
ダニエラが何をやっているかと言うと、ある日本のスポーツジムがニューヨークに進出すると言うのでマーケティングの仕事を請け負っていてPR写真を撮影をしていた。
そのスポーツジムは、結果にコミットし理想の体重にすると約束している。
イメージキャラクターは日本のハーフモデルで、幼顔でどう見てもアニメの萌えキャラであった。
ジムの経営者とその側近の女性は自慢げに言った。
「弊社は男性にモテモテ・20代のボディに逆戻りして彼のハートを鷲掴み!」と言うキャッチフレーズで30代・40代の女性の心を鷲掴み。
漢方と瞑想を取り入れたダイエットプログラムで、日本だけでなく、上海・シンガポール・タイとアジア全土にフランチャイズビジネスとして広がっています。」
「あり得ないわ!!!!!!」
案の定ダニエラは激おこ。すごい形相でNaottaに言った。
男性に媚びるボディになる為にダイエットするなんて、ニューヨークでは絶対にあり得ないし流行らない。
「それになに?あの幼児虐待レベルのコスチュームとボディは?」
「だよね〜。」
Naottaは心の中で日米の差が見えて面白いな〜〜と思いつつ相槌を打つ。確かにこっちの女性は肉付きが良い。
ビクトリアシークレットのモデルも女性の憧れ体型だが自己満足の為で、男性にモテる為じゃない。最近はビクシーも下火で、ふっくらモデルを使った下着メーカーが売り上げを伸ばしているらしい。
と言うわけで、ダニエラが彼らに提案したのは、ピンクのリボンをつけた豚がスポーツジムのマシーンと漢方を併用したら健康的な豚になったと言うストーリーであった。(笑)
「インパクトあるイメージがニューヨーカーの注意を引くわ!」
「ニューヨーカーは見た目が華やかなものが好きなのよ!」
漢方もスタイリッシュなピンクの錠剤に変わるらしい。
ニューヨーカーは痩せると言うより筋肉質のかっこいいボディになるのが良いらしい。男性はムキムキになりたがる。
「それに痩せた体がいいからといって無理なダイエットをする無知な若い女性をとめないと。」(そんなダニエラは当時はかなりぽっちゃりでジムに通っていた。w)
そんな正義感に基づく思想に押されてダニエラは彼らの仕事を請け負ったらしい。
しかもほとんど彼女に利益はないようだ。
そして数ヶ月後、ダニエラは彼らとのビジネスを解消したと語った。
理由はジム経営者がフランチャイズ経営をしないかとダニエラに持ちかけたそうだ。
しかし店舗の賃貸やオペレーションや雇用まで全てダニエラ持ち。彼らは自分たちのブランドを使わせてやるから利益が出たら数%渡せ、と言ったそう。
なんとも足元を見た一方的な契約内容だ。
フランチャイズは、フランチャイザーとフランチャイジーがお互いに持分を交渉して最適な契約内容を結ぶことがビジネスの成功には必要である。
フランチャイズ契約に関してアメリカではしっかりした法律もある。
おいおい、そんな一方的な契約交渉大丈夫か?訴えられるぞ?
アジアで広がっているという事はこの方法でやってるんだろうか?
Naottaの頭に嫌な予感がよぎったが、かき消そう・・・。中小とはいえどまともな商売やってくれよな。
ダニエラはその後誰かとパートナーシップを結ぶより本当にやりたい自分のビジネスにより集中していった。
その後アジアでの成功体験をひっさげてニューヨークに進出しようとしたそのスポーツジムは一度も利益を出さずに撤退した。
ニューヨークのJapan Societyでもかなり大々的なイベントをやっていたと記憶する。
そしてNaottaは欲望の渦巻くビジネスの裏側を垣間見た気がした。
番外編・終わり
※この物語はフィクションであり、登場する人物・団体等は実在のものといっさい関係ありません。