それは突然起こった。
ワシがコンビニのドリンクコーナーで飲み物を物色している最中に突如感じる違和感…
ガラスの扉に反射したわしは、身に覚えのない姿になっていた。
ガラスには、真っ赤な雄々しきストラトキャスターを肩にかけたわしが映っている。
いや、正確には肩にかけているのではなく、そのストラトキャスターはなんとわしの股間から生えていたのだ。まるで自分の体の一部かのような感覚。産まれた瞬間からそこにあったような自然さ…
試しに竿を抑えて玉袋を撫でてみる。
素晴らしい音色だった。
しかもアンプに接続していないにもかかわらず、十分な音量が鳴り響き、それだけでなく絶妙なエフェクトがかけられていた。
程よいディレイに芸術的なリバーブ、サイコーにGAIN。歪み具合も完璧だ…!!
このような場合には、おそらくケツの穴にシールドを差込みそれをアンプに接続する形が定番に思えたが、幸いにもこの時のわしにはそのスタイルは当てはまらなかった。
最高に自由でロックな状態。己の竿一本で、至高のメロディを鳴り響かせることが出来る。
考えるよりも先に指が動いた。
試し弾きせずにはいられない。一刻でも早くこの素晴らしき音を、衝動を、ちんちんを…解放したい。
店内をつんざくイントロは、マキシマム ザ ホルモンの
「ビキニ・スポーツ・ポンチン」!!
もはやわしはその指を止めることは出来なくなっていた。一心不乱に金玉を掻き鳴らす。
最高の「音」が、わしの"ちんちん"から発せられていた。
----実際にちんちんがエレキギターに変化していたわけではない。ドリンクコーナーのガラスから己の下半身に目を落とせば、そこにあるのは雄々しく反り立つ己のちんちんのみ。心無しか若干のサイズアップは感じるが、いつもと変わらない状態でソレはそこに堂々とあった。普段と違うのは、触れれば心を打ち震わすメロディが鳴り響くということ。そして、ガラスに反射したわしが抱えているソレは、誰がどう見ても紛れもないストラトキャスター。万人に俺はギターなのだと錯覚せるほど、それほどの気迫が、わしのちんちんから津波のように押し寄せていた----
どこからともなく、体の内側で増幅され、開放される音の振動がたまらなく心地よかった。
頭のてっぺんから金玉の芯にまで響く多幸感…。えも言えぬ快感…。
圧倒的な音圧が、店内を支配する。
これなら、ワシの魂を店内にいる人間全員に届けることが出来る…!
ヴェンヴェンッ♪
ビキニスポーツポンチンッ!!
ヴェンヴェンッ♪
ビキニスポーツポンチンッ!!
ヴェンヴェンッ♪
ビキニスポーツポンチンッ!!モンキースパァッナビッグポォーッンチンッ!!!!!!
掻き鳴らす金玉!14cmの竿の上で踊り狂う4指!迸るディストーションに店内が一斉に沸いた。レジ待ちの客達がヘッドバンドの列をなす!!
会場は完全に温まった!!
沸き立つオーディエンスはさらなるドーパミンを求めて酸欠状態だ!!!!
そこでわしが次に繰り出すキラーチューン!!!
楽曲は…
YEAH!!
愛してるぜ坂本龍一!!
わしのギターはビンビンだ!!
ハードピッキングに打ち震える玉袋はさながらラインデンフロスト!マグニチュード9.0を身に受けるプリンのようだ!!
中指を突き立て舌を出す!!
お前ら全員ファ☆ックしてやる!!
会場の熱気は最高潮だ!!
レジ打ちはレジから札束をばら撒き、観客達は次々にコーラへメントスを放り込む…
湧き上がる幾本もの黒き柱、甘ったるい飛沫!!エナジードリンクに殺到する群集!!紙吹雪の如く会場に巻き上がるポテトチップとポップコーンの数々!!
感極まった観客の1人が消化器のチューブを口に咥えそのピンを抜き去ろうかというその時!
わしは目覚めた…
半覚醒状態、まどろむ意識の中、わしは左手に竿を握り、右手でしきりに玉袋を上下に撫で続けていた……
「はやくゴミ出してきてって言ってるでしょ!!」
妻の怒号に飛び起き、いそいそとゴミ袋をまとめて玄関を後にするわし、朝の冷気が身に刺さる…
最高のライブの余韻は、気づけば11月の風に乗って彼方へと消えていた…