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「障碍者特権」と真の対等

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  • あび(abhisheka)
  • 2019/08/15 06:29

「障碍者特権」と真の対等

標記の件で考えることは日々、わりと多い。
おおざっぱな傾向を言うと、まず「特権」(お先にどうぞ程度を含める)を認める人はまあ多い。
次にそれをこちらが当然のこととして通過すると
認めてやったのにその態度は何だ!?ということになる。
しかしいちいち「恐縮」することか。
ありがとうは場合に応じて言うけど、すみませんはなるべく言わないようにしている。
このあたりの機微に標記の件の日々のせめぎ合いがあると思う。

 

例(特権の例にはなってない気はするが、同じ構造を表している)
地下鉄千日前線の鶴橋駅でエレベーターをおりてから
車椅子スペースのある入り口へ行こうとした。
ここは階段横のためやや細い通路になっていて
それ自体は、駅の設計ミスだ。
車椅子スペースのある車両に乗れるドアの前はホームが狭いので
そこでドライブテクで方向を定めうまく乗らないといけない。
そのドライブテクは今の僕にはあるが、障碍の重い人や、将来の僕はどうかわからない。
問題はここに人がいた場合で、そもそもその位置まで行けなくなる。
こないだ、そこで若者男性二名女性一名が団扇で互いの頭を叩いたり、笑ったりしていて、通行の邪魔だった。
中のひとりが気づいて「お、どけよ」と仲間に言い、その若者は「あ、すみません」と言って、脇によったので通れた。
通ったあと、向きを変えて、その乗車口にすぐ乗れる態勢に持っていくには、ちょっとテクがいるので、集中していた。
その間、僕は無言だった。
ここに車椅子乗降口があり、そのマークもあることについては、彼らは意識していないなという気持ちが,僕の顔に表れていたかもしれない。
すると、若者の中の女性が「おっさん、えらそうやな」とこっちに向かってではないが、仲間の男性に言った。
そこで僕は「今のん、どういうことやねん」と言うと、男性も加勢してきて、口論になった。
電車が来たが女性は口論を続けたので、前にたちはだかって乗れない。
「まず、そこをのかないと乗れないんやけどな」と言うと男性が「まず乗ろ」と言って、四人とも乗った。
彼らは車椅子スペースを意識していないので、車椅子スペースに立っている。
しかし僕は二駅で降りるので、そのスペースがほしいとは思わず、狭い車内で人に気をつけながら、方向転換し、すぐ降りられる態勢をつくってから、口論の続きになった。
「おっさん、えらそうやな、は余計やろ」と言うと
女性は「おっさんやからしゃあないやん」と言った。
「おっさん、えらそうやなと聞こえるようにゆうたら、喧嘩売ってることになるやろ」
「あのなあ、ちょっと障碍者やから言うて、偉そうにしてたらあかんぞ、こら」と男性が言った。
「関係ない」と僕は言った。
まあまあ感心したのはこの「関係ない」以降、どの若者も障碍者の話をしなかったことだ。
皆が一度に話すので「ちょっと待て。まず落ちつこ」と僕は言った。
「おお、落ち着いてるで」とひとりが言って全員黙った。
「団扇でホームで遊んでたやろ」
「そやから、邪魔になっていることに気づいて、オレ、すみませんと言って通したで」
そういえばあのとき、その長身の髭の男性は「あ、すみません」と言ったなと思った。僕は通路での位置定めのドライビングに集中していたのだ。
「あのな、おれが火ついたのは、おっさんえらそうやな、からや。それまでおまえらに別に喧嘩売ってないで。そやけど、オレが通るとき、すみませんと言っている相手に対して偉そうに見えたんやったら、それはごめん。ここは、それでおさめとこか。なっ」と僕は言った。
「わかった」と男性が言った。
僕がそう言う気になったのは「すみません」と最初に言った男性の目を見たら困惑したような表情だったし、もうひとりの男性も目がいっちゃってる感じじゃなくて、ちゃんと話をしようというレベルだったからだ。
女性がまだ何か言いかけたが、男性が「ええやん。それでおさめとこ」と言った。
降車駅が来たので、車椅子乗降口が狭い通路部分にあること、君らが今立っているのは車椅子スペースであることを説明する暇はなかった。
だが、悪い若者たちではないと思った。
もっとひどい大人はいっぱいいる。
だが、あの三人の中ではタチがわるいのは、女性だった。

 

ぜんぜん関係ないが帰りのJR環状線で、体中入れ墨だらけの屈強な、欧米に住んでいるなと想えるような有色人種(真っ黒ではなかったので一応こう言う。褐色である)が、若い日本人の女の子に「うめだ」「うめだ」と環状線の地図をさして片言の日本語で言っていた。うめだという駅がないので、混乱しているのだ。女の子は困っていた。彼はそのとき僕に背を向けていたが、体をさわって声をかけ「英語を話すか」と聞くと「イエス」というので「この列車で大阪駅に行ける。大阪駅で降りればそこが梅田エリアだ」と言った。すると若い彼は「Thank you,sir」と言った。sirと呼ばれるのは、アメリカに住んでいたとき以来だ。そう呼ばれたいとふだん思っているわけではないが、正直、おっさんよりは気分がいいと感じた。そのとき、関係ないことだと理屈では思っているが、車椅子の上に向かってsirと言われたのは、初めてだと意識した。日本人の女の子も軽く僕に会釈した。

 

思想的な言葉でまとめると、障碍者に必要に応じて配慮するのは、施しではない。対等なつきあいの一部だということだ。もちろん必要以上に特権をもってもらうことはいらないし、必要以上に権利を主張することもいらない。ただ必要に応じて配慮するのは、施しではなく、対等だという思想が浸透することが重要だと思う。ここからくる帰結は、配慮してもらったからといって、あるいはそうしてもらわないと生きられないからといって、萎縮する必要はない。自分の人間としての尊厳がほんの少しでも欠けていると思う必要はない。対等だということだ。施してもらっているのだから、言うこと聞いておけやということにはならない。この思想が、社会に透徹していれば、あとは、何が必要な配慮かについてのコミュニケーションと、通常の人間と人間の、互いの尊厳を認めたつきあいが残っているだけだ。だから「障碍があるからというて」という相手の言葉に僕が「関係ない」とはっきり言ったあと、さらに障碍者特権の話を続けることは一切しなかった若者、「施し受けてるねんから謙虚に生きろや」という方向に持っていかなかった若者には、まあまあ「感心した」と言ったのである。(逆に言うと、そっちの方向にしつこく話を引っ張る大人がいるということだが。)
とにかく、上のふたつのエピソードは、この問題に違う角度から関わっていると思った。

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10代より世界放浪。様々なグルと瞑想体験を重ねる。53歳で臨死体験。31年の教員生活を経て現在は専業作家。https://note.mu/abhisheka

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