ニューヨークのバレエ学校で心技体を磨いたさくらは、
ブルガリアのバレエ団ーステイトオペラ スタラザゴラ に就職が決まり
日本に一時帰国していた。
待っていたヴィザが下り、明後日出発というあわただしさの中、
前から約束していたお茶する日が、完全にお見送りの日(しかもギリギリ!)になった。
JR大阪駅で待ち合わせ、中崎町へ。
ブルガリアのバレエ団では公務員待遇なので、トゥシューズが支給されるが、
当座、自分に合うものを持っていかないのは不安なので三足買ってきたと言っていた。
とにかくものすごいスピードで履きつぶしてしまうものなのだという。
履きつぶしたやつはどうするの?
ニューヨークで棄てにくくて溜めてたら、最後ロッカーから雪崩を起こすぐらいになって、仕方なく棄ててきたという。
売ればいいのに。
そういう趣味の人が嗅いで悦ぶと思うというと
えええ! 今、ぞわぞわって来たと言っていた。(苦笑)
さくらが、ここ感じよさそうといった喫茶はレコードでジャズをかけている
感じのいい店だった。
コルトレーンが流れる。
さくらの意識がふーっとそっちに引っ張られていくのがわかる。
もはや一種のトランスだ。
これ、敏感すぎ。(-_-;)
霊感とはまた違うけど、生活に不自由なほど、敏感ではないか。
だけど、それが、さくらの才能なのだ。
その全部を自分の中で昇華してダンスにしてしまう。
それは混沌として、しかも妖艶だ。
だから身長153センチの彼女が、高さもスタイルもまるで異なる外国人にも混じっても、光るのだ。
「私だって恋をしたい」の第一章胎児のシーン読んだ?
あ、あそこはまだなの。
とその場で開いて、「うわああ、生々しすぎてダメだあ。あとでゆっくりひとりで読みたい」
聞いてると、さくらが「ダメだあ」と言うのは、若者言葉の「ヤバイ」に近い。
否定しているのではなく、ぬるっとコントロール不能のカオスに持っていかれ、トランスに入ってしまうという意味合いだ。
「食人華という、人を食べる華の話も書いたんだけど」
「え、ダメだああ」
そんなに!?
僕が紡ぎだした表現の頂点でやっと感じるヤバイ感じが、ワンワードですぐに入ってくる体質がわかる。
それはバレエというジャンルとは少しずれている。
むしろコンテンポラリーダンス?
変態画家?
それらは全部生々しいカオスという意味において共通している。
そうか、いちいち体に入れるんだ。
疲れそう。
でも踊っているときはそのすべてが透明になるのではないか?
僕もそうして書こうかな?
ああ、コルトレーンが、さくらの体に入っていくのが見える。
さくらが目を閉じ、肩が揺れる。
まだ見たことのない彼女のバレエが見てみたいと本気で思った。
これを全部昇華して踊るなら、普通のバレリーナじゃない。
もっとトータルなアートではないか。
トゥシューズを見せてもらった。
基本的に木製なのだと触ってみて僕はその感触を初めて味わう。
トゥシューズと一緒の撮ろうというと、かわいく持つのではなく、かぶりつく真似をする。
ただしい選択だ。😂
紅茶やコーヒーの味わい方もすべてが共通している。
一種のトランスという意味で。
いちいちトランスに入りすぎやろ。
彼女はあらゆるバイブレーションを清濁併せ呑んでダンスに昇華する特別の才能がある。
繰り返しになるが、
だから、長身の立っただけで美しい外国人に対抗できるのだ。
帰り道、イルミネーションのところで一枚だけ撮ってと言われたので撮った。
僕は彼女のバレエを見に、バリアだらけのブルガリアに電動車いすで行けるだろうか?
ソフィアまで迎えに来てくれるというけど。