良寛の天上大風という書(複製だけど)を初めて見たとき、心身脱落し、空(くう)になったあの体験をなんとか表現しようと、殆ど、詩はそのために書いているようなものです。
(第4回『文芸思潮』現代詩賞 優秀賞 「凧」改題)
空を見上げると
幾重にもかさなる光の層の中で
はためく凧(たこ)
光る糸がぼくの手につたえる
はげしい気の奔流
よどみ
渦まき
せせらぎ
歌
ジェット機の翼が
空を豆腐のように切り裂いて
見えない青の中に
血がほとばしる
と見るまに
やさしい風がなだれこみ
傷に触れ
ゆらぎ
たゆたい
雲の繊維に
光が満ちかよう
はてしなくふりそそぐ
オーロラ
隕石
宇宙線
おわりのない空なるものの遊戯に
つきささる
ぼくの
凧