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新湊川と阪神淡路大震災 近代日本の闇

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  • あび(abhisheka)
  • 2019/10/11 20:47

 台風19号の影響で江戸川区が危ないという記事、その理由は、荒川の堤防が、都心を守り、江戸川区を犠牲にするように設計されているからだという情報を読んだ。

 それで思い出し、古い、以下の原稿をひっぱりだしてきました。

 

概略

昔、湊川はまっすぐ南北に流れていた。
しかし、神戸港を良港にする都合、および川崎造船が軍艦をつくる都合で、湊川は東西に走って別のところに流れ込む新湊川に無理につくりかえられた。
そのためその流域でたびたび水害が起こり、地盤が脆弱になった。
また劣悪なその土地には部落が形成された。
そここそ、阪神淡路大震災で桁違いに被害の大きかった長田区番町である。


 

 二〇〇九年度、私の勤める大阪府枚方市の中学校では二学年において、防災をテーマに総合学習を行った。その中、阪神淡路大震災について、ビデオや被災者による講演などで知る機会を設けた。
 

 その教材研究を深める中で、私自身が温めてきたテーマがあった。残念ながら、研究には時間がかかり、総合学習での取り組みプログラムの期間に生徒に還元することはできなかった。

 だが、ここで調べたことは、近代日本の成り立ちと部落差別について考える上で重要な視点を有していると考える。そこでここにそのレポートを掲載したい。


 

 阪神淡路大震災についての教材研究を進める中、私は、これを契機に近代日本国家の大きな産物のひとつである神戸という町の成り立ちについて根本的に考える必要があると思いいたった。

 以下、調べたことをもとに近代神戸の歴史をひも解いてみよう。


 

 1868年(明治元年)、まさしくその時代の変わり目において、開国の象徴のひとつともいうべき神戸港が開港する。そして、近代国家として殖産興業、富国強兵という政策をとる明治の日本において、神戸港は急速にその役割を増大させていく。

 特に大日本帝国の海軍力の増強という面において、神戸港の果たした役割は、とても大きい。

 神戸の川崎造船所が最初の軍艦建造に着手したのが1900年(明治33年)である。以降、日本は1912年(明治45年)頃までに軍艦をほぼ自給できるようになるのだが、そのほとんどの建造は、川崎、三菱の「神戸工場」が担う。

 さて、ここで問題となるのが、造船所の都合による湊川の改修工事の問題である。

 かつて、湊川は現在の新開地本通りをまっすぐ南下して海にそそぎこんでいた。だが、その河口に用地をかまえ、軍艦建造を行おうとしていた川崎造船所とそれを支える明治国家にとって、旧湊川の土砂は神戸港の水深の維持を妨げる大きな障害であった。

 そこで、1901年(明治34年)、湊川を新湊川へつけかえる工事が行われる。時期を同じくして、旧湊川の河口には、船舶用地がつくられる。

こうして大規模な修築工事を経て、神戸港は世界に冠たる良港として完成するのである。

 (神戸港の外国貿易額は、新湊川つけかえ後の1902年(明治35年)には、つけかえ前の1892年(明治25年)のほぼ4倍に達している。)

 つまり、新湊川のつけかえは、日本が強大な帝国として世界史に登場するための国家的な「大事業」であった。


 

 川は高きから低きへ流れるのが自然の理である。ところが、人工的な運河というべき新湊川は、海に並行して東西に長く伸びている。そしてその海側には「番町(現在の長田区番町)」がある。

 新湊川のつけかえ工事は地形上から見て大きな無理があり、番町地区に大きな水害をもたらすことがわかっていながら、強行された。新湊川つけかえ前には、水害のなかったこの地区をそれ以降、数々の水害が襲う。


 

 そんな中、番町地区には部落が形成される。部落解放令以降に、それに逆行する形で新たに部落が形成されたのが、明治の歴史の真実である。(ただし番町地区全体が部落だったというわけではない。)さらにそれとは別に、この水害の多い土地には、沖縄、奄美出身者、在日韓国朝鮮人らも多く移り住む。


 

 歴史を下り、20世紀の末において、この近代国家によるしわ寄せは、大きな災害に結びつく。

阪神淡路大震災において長田区の被害が、周辺地域に比べても突出していることはよく知られている。だが、中でも番町地区の全半壊家屋は1400戸、全世帯の60パーセントにあたる。これは被害が多いとされる長田区全体の全半壊家屋28パーセントに比べてもさらに2倍以上の確率である。

 この件については、住宅地区改良事業の指定範囲が狭く、老朽化した家屋が多かったという分析されている。しかし、加えて、明治以降の度重なる水害のため、土壌が極めて軟弱であったと記述している資料もある。

 いずれにしろ、老朽家屋が多かったという問題も、土壌が軟弱であったという問題も、両者ともに先に述べてきた神戸の歴史との関わりぬきには語ることはできない問題である。

 震災における番町の被害は、近代国家百年の計にあたるといえば言いすぎだろうか。


 

 明治の日本が近代国家として強大化していこうとしていくとき、港町神戸の果たした大きな役割。しかし、その神戸港を成立させるための影の部分としての被差別の歴史。

 阪神淡路大震災が、改めて明らかにしたものは多岐にわたるが、「近代神戸」ひいては「近代日本」の成立そのものに関わる闇をもまた、かの震災は照らし出したのではないか。

 今、私たちは、このような「近代国家」の差別構造を越えていく地平に出ることができただろうか。

 それともこのような差別の構造そのものは、今なお形を変えて、この国の様々な場所に時にはあからさまに見られ、時には非常に見えにくい形で隠されているというべきであろうか。

 

Content image

海に向かって南北に流れるのではなく、無理やり東西に流れるように付け替えたため、高い堤防を必要とするようになった新湊川。かつて、あび自ら取材し、撮影してきた。これは震災後、堤防が高く改修された後です。

 

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長田区の図書館。これだけの資料がありながら、なぜ長田区の被害が大きかったのか、調べるのは、けっこう困難だった。だが、なんとか発掘することができた。

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10代より世界放浪。様々なグルと瞑想体験を重ねる。53歳で臨死体験。31年の教員生活を経て現在は専業作家。https://note.mu/abhisheka

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