・ 動物霊の重要性
このように意識を変容し、境界を超えていくための技法には、様々なものが伝わっている。
こうして、部族社会の脱魂的なシャーマニズムでは、様々な技法によって変性意識に入り、異世界へ旅をする。
そしてその異世界において、聖なる存在と出会い交流する。
大切なことは、部族社会の多くの伝統において、異世界で交流する聖なる存在は動物の精霊であるということだ。
このことは、民族国家宗教が人格神の登場する民族神話を持つ点とは大きく違っている。
この点について、歴史的な視点から探ってみよう。
太古において、聖なる表象は動物の精霊であったことは、旧石器時代後期(約三万年前から約一万年前)にクロマニヨン人たちに描かれた壁画群にも、既にその特徴が現れている。
有名なフランスのラスコーの壁画には、鳥頭のシャーマンが描かれている。(図3)
シャーマンは、バイソンを槍でしとめたようである。
バイソンは死の扉を開き、シャーマンは鳥に仮装することによって、人間としての境界を突破して大自然の力とひとつになっている。
シャーマンの覚えているエクスタシーは、後ろにひっくり返って泡を吹いてでもいるようなその姿勢やくっきりと勃起したそのペニスからも窺い知れる。
シャーマンもバイソンも変性意識のエクスタティックな状態において、深く解放されている。
忘我状態にあるシャーマンと死んでいこうとするバイソンは、深いトランス状態を通じて交流し一つになっている。
このような壁画の根本には、神性の表現としての動物への大いなる畏敬の念がある。
だからこそ、シャーマンは自らの人間性を超えて力の象徴たる動物に化身し、動物霊の圧倒的な霊力とひとつになろうとするのである。
またフランスのレ・トロワ・フレールの壁画群には、弓を操るバイソン姿のシャーマンが描かれている。(図4)