注意:この記事では医療用鎮痛剤であるフェンタニル、動物用鎮静剤のキシラジンなどドラッグに関する話題を取り扱っています。
かつて工業の中心地だったデトロイト、フィラデルフィア、アメリカ経済を代表する街であるニューヨーク、一流大学の集積地であるボストン、世界のIT企業が集うシリコンバレー、これらの街はすでに麻薬に破壊されつつあると言ってもいい。アメリカは今、報道されないところで麻薬問題が深刻化しており、若者の7人に1人がドラッグ中毒により死んでいる。
世界でもっともGDPの高い国でいったい何が起きているのか?その具体的な内情を知ることは普段の生活からではないかもしれないが、そこにはすでに、イメージを改変しなければならないアメリカの姿があるように思える。この問題があるということは重要なことであり、今後の国際関係にも一つの敷石になることは間違いない。
現在のアメリカにおける麻薬蔓延問題は、すでにメキシコ麻薬戦争や中国のアヘン戦争と同レベルになりつつある。近年では、カナダやアメリカ、タイにオランダなどの国で大麻が解禁されたり、低レベルドラッグの利用が認められる流れが出てきていた。その流れで、市中には大量の麻薬が流れ込んでいるわけだが、ここで取り扱っている問題は、合法の範疇を超えた危険ドラッグの流通にある。
最近話題になっていたフェンタニル(Fentanyl)はその一つであるが、そもそもフェンタニル自体、娯楽目的で使うことはない。基本的には末期がん患者の鎮痛剤みたいな、医療目的で使われるのだが、それを何の病も患っていない薬物ハイが使いまくっているのが、今のアメリカということだ。
麻薬系鎮痛剤は、レベルがある。末期がんを例にすれば、ステージが上がるにつれ病状は悪化するため、必要とされる麻薬の強さも上がっていくことになる。例えば、モルヒネやオキシコドンは比較的低レベルの鎮痛剤で、患者の病状が悪くなり、オキシコドンでも痛みを感じるようになると、次のレベルの鎮痛剤に移行する。それはいわゆる麻薬の中でも最強レベルとされる麻薬であり、フェンタニルがそれにあたる。
大体の場合、医療機関でそんな危険なドラッグを使って大丈夫なのか?という疑問があるものの、実際に医療機関内でドラッグ中毒になった医師は大量にいる。そのうえ、現在韓国などでもフェンタニルの流通が問題化しており、使用者の大半を占める若者の入手元が病院であることも示唆されている。
それは当然、日本でも起こりうる問題であり、他国で問題になっている薬物中毒者の行く末は脳裏にあったに越したことはないだろう。
ドラッグが蔓延している街といって思いつくのがフィラデルフィアだろう。ケンジントン通りは有数の薬物中毒者量産センターであり、のちに解説するキシラジンもここで流通している。
Youtubeには、ここの様子を映し出した生々しい映像が多数公開されており、削除されない限り見ることができる。しかし、そこに映し出される光景はいつまでたっても同じものであり、なおかつ悲惨だ。
ケンジントン通りでよくみかける中毒者の恰好の一つに前かがみが挙げられる。あの前かがみになったゾンビのような姿はどうやって再現されるのだろうか。ネット上にはそのアンサーがある。それは、半覚醒状態での呼吸抑制を引き起こしていることにあるという。簡単に言えば、あの中毒者はヘロインを摂取しており、その効果を最大化させるためにゾンビのような前かがみ状態でふらついているということだ。
この症状はヘロインを吸った者のほとんどに見られると言っている。
また、ケンジントン通りにはヘロインだけではなく、フェンタニルも流通している。フェンタニルの致死量はわずか3mgと少量で、その存在に気づかないくらい少ない。実際、少量のフェンタニルを含んだシールを貼らせただけで、人が死んでしまった事例が日本でもある。
フェンタニルはドラッグ合法国でも危険薬物とされているが、その強力さを求める人は後を絶たない。キシラジンはフェンタニルとは異なり、違法性のあるものではないため、法律のすきをついて利用するものがいるとのことだが、キシラジンなどの超強力ドラッグを使ってしまう理由は「フェンタニルが強すぎる」からという意見もある。つまり、フェンタニルは一度麻薬に手を染めて、さらにより下級の麻薬に戻れなくなる悪魔のゲートウェイドラッグだと言える。
米国テックシーンを象徴する存在であるシリコンバレーでは、そこら中に薬物中毒者がのさばっていることで有名だ。かのスペースXのCEOであるイーロンマスクやGoogle元創業者のセルゲイブリンもまた、ドラッグ愛好家で知られており、その広がりの範疇は想像を超えている。
とはいえ、富裕層の間ではやっているドラッグは合法かつ適量のものが多く、コントロールできている場合が多い。しかし、もちろんコントロールできていない者も多くいる。
そのうえ、コントロールできているとは言っても、確かにマイクロドーズで問題ないかのように見えるが、ファンダメンタル的要素に乏しい見方もあり、「本当に大丈夫なのか?」といわざるを得ない状況とも見て取れる。薬物系インフルエンサーは基本的に「適量であれば問題ない、ゾンビ化など当然するわけがない」と語っており、話をよく聞くと定量的に論じられてもいる。
しかし、ドラッグ問題はブラックホールのようなものだ。外から見たら真っ黒で何も見えないが、その表面まで近づくと様相が変わる。だからそれがいいのかわるいのか、やばいのかやばくないのかという境界が個人では判断できない。それが前提である以上、どれだけドラッグに精通している人間が目の前にいたとしても、彼らの言動が保証されることはない。
アメリカ経済の象徴といえる街であるニューヨークは、すでに薬物臭香ばしい場所になってしまった。2021年に大麻の利用が合法化されたニューヨーク州では、相次いで町中に大麻ショップが乱立し、まるでバンコクのような状態になっている。
特に強烈なにおいを放つのがマリファナらしく、受動喫煙者が続出するニューヨークでは大麻に対する新たな規制まで考えられる事態となっている。マリファナも大麻も、NYCでは合法だから問題ない。そんな意識は加速のさなかにあるばかりで、街中には非常にカジュアルでラフで、日常的なカナビス利用者にあふれているという。
そして、大麻臭がつきまとうここニューヨークでも例のごとくフェンタニルは出回っている。先に述べたように、フェンタニルの致死量はたったの数ミリグラム、つまりなんかのお菓子や飴、フリスク的なものに混入させておけば、一瞬で重度の薬物中毒者にさせることができるブツでニューヨークには違法業者が平然とこれらを売っているというのだから驚きだ。
ニューヨークの薬物問題の最たるところは市が薬物利用を認めてしまっていて、かつ税収も安定的に取れているところにある。つまり、すでにドラッグ経済圏が確立しており、しっかりとニューヨーク中に薬物文化が根付いていることが根絶とは真逆の方向に突き進んでいることになるため、根絶がどうとかこうとか、ほとんど効果的ではない語り口だということだ。
公然と街中に出回る危険ドラッグ、それはアメリカ社会を徐々に混沌の中に誘っているかのようにも思える。麻薬などの流通元として考えられるのはメキシコや東南アジアだが、フェンタニルの別称「チャイナホワイト」が言うところのように、それは中国がかかわっているという話も出ている。
実際、大量のフェンタニルが中国から届いたという報告をメキシコの大統領は話しており、中国の主席にこのことを伝える旨を明らかにしている。
中国はかつて、イギリスにアヘンを流通させられ国を破壊された経験がある。それを見た日本はイギリスや欧州諸国に恐怖し、対立することを避けるようになったほどだ。中国では、イギリスが国を破壊しにやってくる前までは、アジアのリーダー的存在として君臨し続けてきた。
しかし、アヘン戦争やアロー戦争などを経て清がズタズタにやられると、その期間を100年国恥として後世に語り継ぎ、再度明の時代の栄光を取り戻すことを宣言してもいる。つまり、中国はアヘン戦争の一件を忘れていないとも考えることができ、もしそうであれば現在アメリカを破壊し続けている「フェンタニル問題」は仕返しの構図になるという解釈もできる。
アメリカ中に蔓延するオピオイド系薬物、危険薬物はすでに緊急事態のもとにあると言っても過言ではない。その悪夢のような状況をさらに加速させるドラッグが、現地では問題になっている。
それがキシラジンである。
もともと、動物用鎮静剤として使われていたキシラジンはヘロイン等と同様、麻薬的中毒を起こすが、厄介なのは皮膚の破壊、肌の壊死や手足の切断を行わざるを得なくなるドラッグだからだ。この薬物に手を染めた人間は、文字通り「自己完全破壊」を体現することとなり、行く末に希望など微塵もないことがうかがえる。
最後に、なぜドラッグを手にしてしまうのかについて考察してみる。ドラッグが危険か否かはさておき(本稿ではほとんど危険というニュアンスでとらえ続けたが)、それを手にして摂取してしまうことにはある一定の動機が存在する。それはリストラや貧困が引き起こすとされているが、単なるリストラや貧困では手を出さない場合もある。薬物に手を伸ばす理由の一つに挙げられるのが、シンプルに精神的に前を向けなくなる時だろう。
人は失敗を繰り返すが、いつもどこかでそのマイナスをプラスに転換できる契機がある。そして、仮にマイナスに陥ったとしてもプラスに転換できると見て取れるときは、極度に悲観的にはならない。マイナス要因も忘れることができるのだ。
しかし、このマイナスゲージが短時間で驚くほど巨大化したらどうだろうか。おそらく精神的にどうやってやり過ごせばいいのかわからなくなるだろう。かつ、それが時間的発展においてやり過ごしがたいと感じたときはさらに精神的苦痛は倍増することになる。これがまさにドラッグが介入するタイミングになると考えている。
薬物にどう向き合っていくかというのは、世界中で議論されているが、どちらかといえば「そんなに怖がるなよ」派閥か「絶対にやってはいけない」派閥に分かれきりで両者以外の極がないように思える。この状態が結果的に薬物中毒者を増加させる構造にあるようにも思える。