おいおい、何をそんなに拗ねているんだ・・・・・・
(なにか、声が聞こえた気がする・・・・・・
いいえ、気の所為ね)
『いい加減、小虫を潰すのにも飽きたわね。結果じゃない、過程が大事なんてことはこの際必要無いし。
じゃあ、こんなもの!大陸ごと沈んじゃえぇ!沈没大陸《シンクランド》!!』
阿鼻叫喚、まさしく人々が逃げ惑う姿が凄まじい地面の震動で文字通り宙を舞った。
その後、大陸一つが海に飲み込まれるまでに十分と掛からなかっただろう。
それが、南東の大陸に住む人々にとって地獄の時間が短かったことだけが幸いだったろうか。
『うっひょう!貯まるぞ、貯まるぞ。我の財貨が既に小山の様だったのが本当の山になりおった。
やるではないか、やるではないかソローンめ』
凄まじい速度で増える財貨に喜々として喚き散らすバアルの人頭に他の者は冷や汗をかいていた。
あれほどまでの魔導の技を我が身に受けていれば、どうなっていたことかと。 現在そのホムンクルスを操っているヴァサゴですら恐怖を覚えていたほどに。
その中で、財貨の山が築かれる様を嬉しそうに眺め飛び跳ねる人頭の方が異常なのだろう。
ホムンクルスは、沈みゆく大陸の惨状を気にも留めず次の目標に向かった。それほど時間を開けず津波とともにホムンクルスが降り立ったのは、本拠にしていた街から南西に位置する大陸だった。
既に沿岸地域は高波によって壊滅状態だった。
ホムンクルスが南西の大陸に到着したときには既に南東の大陸から伝番した狂気によって暴動が勃発していた。
高台に位置する贅を究めた王侯が住まう城は襲われ焼き討ちに遭い、宝物庫に納められた金銀財宝と選りすぐりの美姫たちが攫われ犯し尽くされた。
迫りくる逃れられない死の恐怖が人々を野獣に変えた。真っ先に被害を受けたのが城だったのは薄給で扱き使われていた兵士が本来は守るべき城を荒らす賊となったからだった。
「おーい!聞こえているか?」
「・・・・・・ 駄目だ、返事なしか。仕方ないやってくれムガット」
『・・・・・・ ムガット』
男の肩から見えない何かが飛び出して行った。
『うっひょう、まだまだ貯まり続けるぞ。なんとしたことか、何としたことか!
うん? な、何だ!この異質で、異常に巨大な魔導の兆しは?!』
バアルが驚き、騒ぐ。
無数の白い小さなものが二重の螺旋を象って、巨大な柱になり・・・・・・
そして、それは大きな人型をとった。
それは、漆黒のマントを羽織っていた。
それは、大気を、大地をも揺るがす声で一つの名前を呼んだ。
「ソローン!」
ホムンクルスの動きが停まった。
いや、どうやら南西大陸周辺の時間が停まったようだった。