ふーん、こうして穏やかに眠ってる姿は俺が憧れていたあの人のままだな。俺はかつての憧れの姉の姿を銀色のカプセルの中で眠る者に重ねた。聡明で清楚で気高くそして誰よりも美しいあの女《ひと》の姿と今目の前に横たわる残念な少女が重なるようで重ならない、有体に言えば違和感がぬぐい切れない。
あの衝撃的な遭遇から、少しして呪われた少女は活動限界を超えた。それこそ糸の切れた凧という風情で意識を失うと身体を制御しきれずに空中から落下した。
俺は思わずセーレの力を使って少女の下にたどり着くと何とかその軽い身体を受け止めることに成功していた。
「こ、これは一体どうなってるんだ?」
「お答えします。我が主、キリュウ・グツチカ・シトゥールは生命維持に費やすエネルギーが極端に膨大過ぎるいわゆる極度の貧乏性で起き上がってしゃべるだけでも大層な大金を失っていきます。そのため普段はコールドスリープ用のカプセルで半ば仮死状態で過ごされております。
今回、リュラーン皇子がお訪ねになられたことを大層お喜びになられて少し羽目を外し過ぎました。ご心配なさらずともしばらく休息されれば、お目覚めになられます」
「そうか、なら安心は出来んが待つとするか。いろいろとお前に聞きたいこともあるしな。ところで、お前の名前は?」
「私は、アラク・アウカマリと申します」
自らをキリュウ・グツチカ・シトゥールのしもべと名乗った女が静かに語る。
長い年月を飛び続けた流刑船が私の制御が及ぶ距離に来た時には、既に我が主シトゥール様は取り返しのつかない状態でした。
それでここに回収した流刑船を改造して我が主の寝所としました。そして私は我が主を見守ってきました。
「しかし、俺の知ってる姉さんはあんなんじゃなかったはずだ。俺が姉さんを見間違うとか有り得ないのに。あまりの替わり様に気付かなかったぐらいだし。これも病気の所為なのか?」
「その答えについてはそうとも言えますし、違うとも言えます。物事の在り様の問題と捉えて頂ければ、これ幸いかと」
「・・・・・・」
俺は、アラク・アウカマリをじっと見つめた。
「・・・・・・ こほん、あれについては緊急措置だったのでございますよ。流刑の地において永い年月をお過ごしになられる、それはもう耐えられないほどの孤独と無聊をお慰めするためでした。
私が我が主をお救いした時には、我が主の精神は幼い子供の頃にまで退行していました。そのころ私が嵌っていた愛読書(ライトノベル)などを読んで差し上げたりした結果中二病ぽくなられたとしても、それはもう仕方のないことでございます」
「くっ、やはりお前が原因なのか!」
「ふう、しかし、こうして見ていると本当に俺の憧れの姉さんだよな。なのに何であんな残念なことに、惜しい人を亡くした・・・」
「ちょっと、なんで私が死んだことになってるのよ?もう、目覚めのキスもくれないとか気が利かないわね。しょうがない子ね、リュラーンは」
「姉さんもキャラが変わり過ぎで、こっちはついていけないよ」
「そうね、今の私は十パーセントぐらいだから。どうし様もないのよ、あとの残りは貴方が言う残念な子だしね。アラク、お茶の用意をして。私の大事なお客様に失礼よ」
まるで解離性同一性障害、いわゆる二重人格なのか?