美容にはシーフードがいいらしいけどね。今は海の幸がホント美味しくなったわね。並みの牛肉とか目じゃないけど最近は肉の方がプレミアかもね。佐賀牛とか飛騨牛とか和牛が超プレミア価格ね。南極を除いて全て沈んだ大陸のすぐそばにある世話好きの島国の伝説になりそうな牛肉らしいわね。
「百グラム、十万イージェイ《EJ》とかホント高級品になったものだわ。まあ、沈没した大陸に近い島で愛情込めて育てられた牛肉は至高のものね。少し脂が多いのでステーキには向かないけど。カレーや網焼きにするには丁度いいわね」
「あの紅い災害以降では、市場《マーケット》が一変して、もうアメリカ牛とかオーストラリア牛はほとんど流通しないからね。欧米好みのステーキ用肉牛の飼育も頼んでいるから二、三年後には流通するだろう。どうしてもって言うなら鹿肉のステーキの方が好みに合うでしょうな。値段はかなり高く付くけどな・・・・・・」
現代の箱舟では、手に入る物を有難く頂く。そうでなければ生きていけない人々も多数いると言うのに。まあ、金持ちからはボッタ喰ってやるからな。男は愛想笑いを浮かべながら最小限の努力で最大限の利益を得る決意を新たにした。命知らずと言うしか無いが。
青く輝く小さな星を眺めて、月の裏側で貴人は溜息を吐く。
「アラク、今宵の地球はとても綺麗ね」
「ご主人様、昨夜とさほど変わりませんが?」
「ああ、我が夫にして弟がこちらに来る前に居た方の地球じゃ。茶色の模様が減って青い宝石、そうラピスラズリのようじゃな」
月の女王キリュウ・グツチカ・シトゥールは、召使のアラク・アウカマリに己が観ていた魔導による映像を大型スクリーンに転送表示させた。
「なるほど、そちらでしたか。竜様の手下の女がが暴れていたようでございます。その影響でしょう、陸地の六0パーセントが水没したようです」
「ふむ、流石は我が君じゃ。着々と準備を進められておるようで、重畳至極《ちょうじょうしごく》じゃ」
「ふう、EJの残高が積み上がってくるのはいいけれど。正気を保つのが結構苦しくなって来たわね。やはり私には女優は無理ね」
苦笑と共に、憂いを帯びた眼差しは穏やかな海に注がれる。自由の女神像に座る彼女の脳裏には、恐怖に歪む北米大陸の住民の逃げ惑う姿が蠢く。
「魂に刻む仮想通貨、霊子《レイス》をハードフォークした血潮で繋ぐ絆のイージェイ《EJ》故に、人々の強大な恐怖を伴って死にゆく時に魂の代価としてEJが私の口座に集まっていく。私は血まみれの財布を持つ、紅の悪魔かもね」
血塗られたドレスを着たスカーレットは、独り言つ。その横顔は、揺らめく夕陽の血潮に染まったかのようであった。