「本国と連絡が取れません、艦長。ただ衛星からの攻撃命令だけが、繰り返し送信されています。暗号の照合により、本物と判明しました」
大国の原子力潜水艦で、副長が報告していた。
「それで、座標は?」
「アメリカ合衆国の東海岸です」
「ニューヨーク市街を攻撃するのか?本国は、世界大戦を始めるつもりか?」
艦長は状況が不明だが、やるしかないかと軽口を叩いたつもりだった。
「いえ、座標は市街地ではなく。例の女神の銅像を示しています」
なぜ?戦略的には有り得ないが、警告にしてはマズイ位置だ。
「自由の女神か?命令は、命令だ。全弾、発射用意!」
「発射深度まで浮上完了。発射準備完了」
「・・・・・・発射!」
世界大戦の火蓋を切って良いのか、その迷いを軍人として振り切って命令を発した。
「発射」
副長の復唱とともに、二四発のミサイルが次々に発射された。複数の核弾頭を装備したものだ。世界を死の炎に包む狂気の産物が死神の斧のように振りかざされた。
「懲りずに、また撃って来たか。闇《ザラーム》金の精《ダハブ》、黄金に変えてしまいなさい、落ちても海が汚れることがないようにね。それと、撃って来た船も金に変えてね、せっかく綺麗になった海を汚すなんてもったいないからね」
ミサイルが次々に黄金の光に包まれ推力不足で墜落していく。中には東海岸付近に到達した核弾頭もあったが、やがて黄金の光に包まれ環境に無害な純金に変化して海中に没していった。
大陸を沈めた後もあきらめずに攻撃してくる愚か者はいた。本国と通信が途絶えた後の混乱だろうけど。遠隔地に配備されていた大きな軍艦や長期間潜航可能な潜水艦などから忘れた頃に核ミサイルが何度も飛んできた。
私も二四時間、起きているわけではないので気付いてから金に変えるまでに時間が掛かることもある。そのため北米大陸跡にまでミサイルが届くこともたまにある。
「よし、引き揚げ完了だ。今日はこの辺でで取れたマグロと、クジラの良いのが揚がったがどっちにする?」
「そうね、たまにはクジラもいいわね。それでお願いするわ。ミサイル一本で足りるわね?余ったらいつものように仮想通貨で、後でいいけど」
「へい、毎度あり。一本丸ごと純金の塊だからな。換金するのは面倒だが充分利益が出てるよ、そうだなあ、多分一億くらいはあんたの取り分になるだろう、じゃあまた、御贔屓に」
「ええ、またお願いするわ」
彼はサルベージ船の船長だ。こちらに向かう途中で捕まえた獲物を優先的に卸してくれている。元々は遠洋でクジラ漁をやっていたが私のおかげで捕鯨反対勢力が海に沈んだので、結構感謝しているらしい。なのでこの辺りに落ちた|金塊《ミサイル》を回収する代わりに私に食材を提供してくれる。物々交換後の差額は仮想通貨で支払ってくれるので本当にありがたい存在で私の口座には山の様に集まってくる。
今の地球では、ビーストコイン(BST)は下火で霊子《レイス》を元にしたイージェイ《EJ》が取引の主流になっている。どちらも向こうの世界で竜が流行らせたもので特にEJは通信が不安定で広大な海を隔てていても決済が可能な仮想通貨だ。竜が南方の海洋国家の王子を弟子にして開発させたもので、海をも渡る血潮のEJとはよく言ったものだ。
「あ、クジラの尾の刺身もイケるわね」
ドバイの高層レストランで、謎めいた美女がつぶやいた。