禿げあがった頭を真っ赤にさせて、魔人が苛立たし気に叫ぶ。
「ま、まさか。お前がしゃべらなかったのは、このつまらない人間の命令を受けてのことなのか?信じられねぇ、あの誇り高かった数々の魔人を使い魔にしてのけた伝説のホムンクルスがただの人間の命令を聞くだと!」
「まったく、他にもお宝を狙う奴が、それも魔人だとかなあ面倒なこって。
リサ、危ないから退がっていろ!」
「ええ、わかったわキール」
魔人セーレがキールの様子を訝し気にうかがう。たかが、人間風情が魔人に対面した時の態度とは到底思えない落ち着いた姿にある疑問が湧きおこる。
果たして、この人間に勝てるのだろうか・・・・・・
「キールとか言ったな小僧、あの碧の洞窟には魔界の序列二十位、気位だけは高い生意気なキュルソンが他の魔人を寄せ付けないようあいつ以外は人間しか出入りできないように魔導の仕掛けがしてあったんだ。
だから俺様は、洞窟から盗み出せると見込んだ人間をここへ運んで待つという寸法だ。つまり、お前はただの人間のはずだ!」
魔人セーレの身体がぶれたように見え、突然キールの後ろに現れ、腰の入っていないへなちょこなパンチを浴びせた。
「くっ、いってぇなあ」
キールが振り向きカウンター気味にパンチを返すと、魔人セーレの身体がまたもぶれて少し離れた場所で手を叩いて囃す。
「はっ、はっ。きりきり舞いする様子が無様で、愉快、愉快」
キールは懐の振動を訝しみ、板を出して見ると文字が点滅していた。キールが点滅する文字に触れた。
『コピーキャット』と、出来損ないの機械音声が文字を読み上げた、そのときキールの姿がぶれて、魔人セーレの後ろに現れると腰の入ったパンチ一発でダウンを奪った。
『しかし、妙だ。セーレのあの動きは、あの速さは昔より速くなっている?!』
美しい生首が呟く。
「うぬう、なぜ。なぜ、人間が俺の速さについてこられるのだ」
「さあ。何でだろうな」
攻勢に出たキールがパンチにキックを織り交ぜて完全に魔人セーレを圧倒する。しかし、流石に魔人だけのことはありその命を完全に刈り取るところまで追いつめることは出来なかった。
「ふう、なんだか面倒臭くなったなあ。このまま、こいつを放っておいて帰るか?」 『そういう訳にも行くまい。これでもこいつも魔人の端くれ、こんなところに野放しにしておくと思わぬ害を広げるぞ。
そうだな、再び私の使い魔にして監視しておくか』
「うん、そんなことができるのか?」
『キールがここまで弱らせてくれたからなあ。
魔人セーレ、我、ソローンの名において命ずる、我が下僕と成りてこの者キールの手助けをせよ!』
「くくっ、何でなんだよう! せっかく、あのホムンクルスに仕返しが、あんなことやこんなことをして辱めてやるチャンスだったのに・・・・・・
ソローン様の仰せのままに」
「やれやれってとこね。これで帰れるわね、キールお疲れ様」
「じゃあ、セーレ帰るぞ。大至急だ」
「へーい」