「先生、まず私は何をすれば良いのでしょうか?」
「そうよのう、まずは基本の炎の魔導から始めるとしようか。その前に、我が君五大素《クハムサ・オンスル》の力を一時お借りします」
「もともと、その力はアスタロトから借りた物にゃ。好きにするにゃ」
「ありがとうございます。けれど今は我が君のお力、ありがたくしばし使わさせて頂きます」
アスタロトは、しばし目を瞑ったかと思うと何事か早口で呟いた。
すると五色の魔人が現れ、しばらくするとその色彩を失い闇色に染まっていった。
「我が君のお力、今お返しいたしました。女、ここにあるは闇《ザラーム》の五大素の魔人、すなわち左から風の精《リャーフ》、炎の精《ショーラ》、土の精《トゥールバ》、金の精《ダハブ》、水の精《マイヤ》という、しかと使いこなしてみせい」
「はい、先生具体的にはどのように?」
「何を為すかイメージを決め、それぞれ対応する魔人の力を借りれば良い。最初はイメージを言葉にした方が、やりやすいだろう。既にお前と闇の五大素の魔人にはブロックチェーンのリンクが形成されている故、言葉にせずとも意思は伝わるがな」
「向こうに的を出してやるから、魔導の力を当てて破壊してみよ」
アスタロトが念じると、十メートル先に弓の的の様なものが現れて浮かんでいる。
「えーと、あの的に炎をぶつけて、お願い炎の精!」
ボシュっ、バーン!拳大の炎の玉が現れると勢い良く的に当たり焦げ跡を残して消えた。まあまあの出来かな?
「ふむ、威力はしょぼいがまあ、やってるうちにマシになるだろう。次は風、土、金、水の順でやるのよ。的は、自動的に補充されるからぶっ倒れるまで魔導の力を打ち続けるのよ!」
「やっちゃえ、竜巻で的を粉砕して、風の精!」
「尖った石で、突き刺しちゃえ、土の精さん!」
「鉄のドリルで串刺しに、金の精よ!」
「高速の水の流れで、へし折っちゃえ!水の精よ!」
(まだまだ、力任せで粗削りだが始めたばかりで、すぐさま魔導の力を発揮できるとは?!やはり、異世界の者にはいろいろと謎があるみたいよのう。このことに気付いておるのは我以外では雌ネコだけか。下僕一号もそれを造りしこの館の錬金術師も特に注意を払っているようにも見えぬ。不可解であるが、我にとってもこれは良いチャンスかも知れぬな)
『ふふ、アスタロトの指導の元で彼女が力を手に入れたとなると。どうなるのかしら、天空に極星は一つしか輝かないんだけどねぇ。ほほっほ』
研究室で、竜の愚痴ともいい訳ともとれる悩み事を聞き流しながら、白衣を着たシャム猫はアスタロトとスカーレットの特訓を興味深げに測定していた。