ああー、うぁー!嫌だ、痛いのはいやあ、食べられるのはもっといやあああ!
「ふう、あれ?なんか、凄く嫌な夢を見たような気が・・・」
スカーレットが何気なく自分の手を見ると、彼女の手は真っ赤な血で染まっていた。
なんだ?俺はいつの間にかコーヒーを飲んでいた、誰が淹れてくれたんだ?
「どうかしら、少し凝った豆を使ってみたけど、ご感想は?」
「うーん、なんとも言えない香りがいいな。それでいて味はくどくなく、すっきりしてる。ありがとう、大分気が晴れた感じだな。ところで、この豆はいったい?」
「ふふ、竜さんのいた世界、インドネシアで高級だけど味のいい豆が紹介されていたので、この前竜さんにサンプルを頼んだとき一緒にリクエストしたの。コピ・ルアクと言うのよ、いけなかった?」
まあ、豆の採取方法が特殊だから興味を持ったんだけどね。ジャコウネコの糞から未消化のコーヒー豆だけを集め、洗浄したものを焙煎してある。なんでも腸内細菌の発酵作用で独特の香りがついたものだと知ったらどんな顔をするかな?まあ、ウジ虫を使い魔にしてるくらいだから気にしないかも。
「いや、美味いコーヒーが飲めて良かったよ。なんだか、気分も良くなったみたいだ」
「そう、じゃあ。そろそろ偽善の仮面を外したら?どう?気持ち良かったんじゃないの、お姫様を助けて悪者を退治して、圧倒的力でねじ伏せ。復讐のため?悪者に懲罰を与えるって、快感でしょ。どうせなら、気分良く富を集めたらいいんじゃなくて。
たしか日本円にして三八兆円が必要なんでしょ?目的があって、それを達成する手段があって何を悩んでいるの?そんなのただの時間の無駄でしょ!」
なんか、ネコさんが煮え切らない俺に対して、蔑んだような冷たい視線を投げかけて来る。そ、そんな趣味はないのに少し、ぞくっと来るぞ。
(ふう、私は竜に救われた。でも、私には竜に恩を返せるものが無い。既に、私は奴らに汚された身だ。まあ、二十一世紀を生きる女なんだし。好色な奴らに散々な目に遭わされ屈辱を受けたって負けはしない。でも、ここは地球じゃない。地球なら竜の力になれたけどここでは、私はただの異邦人。こっちには不思議な力を使う、魔人?使い魔がそれこそ掃いて捨てるほどいる。
せいぜい私は、にっこり笑って竜に心配掛けないようにしないと、と思っていたのに・・・)
「それに、綺麗な人も。あの下僕一号って何なのよ。反則でしょう妖精なのってくらい儚く綺麗で。他にもあの白衣を着たネコ?さん、あの物音一つさせない動きとか絶対人間じゃないわよ。他にもアンとかいう魔人?も素敵だし。一体私は何と戦っているのよ!」
「お前、魔導、魔法が使いたいの?本気なら、手伝ってやってもよいぞ」
「に、人形がしゃべるとか。べ、別に、驚かないわよ。奴らに制裁を与えていた時に見たことあるのを思い出したし。ところで、どう手伝ってくれるの?」
「我はアスタロト、古の魔人にして愛しきネコの婢女(はしため)、魔導には聊(いささ)かの心得がある故にそちの願いを叶えてやらんでもない」
「ネコってネコさん?」
「あんな雌猫と一緒にするでない、今は何の因果か竜の下僕をやっている最高のネコのことだ。まあ、ネコの良さは我が知っておれば良いこと。それよりも、そちが竜の側に居て引け目に感じない程度には魔導を使えるようにもしてやろう。どうじゃ?」
「なんで、そんなに親切なの?私は何も持ってないわよ」
「ふふ、ただの気まぐれ、雌ネコとのパワーバランスがあまり崩れるのも興が削がれる故のこと、そちが気にすることではないわ」
「ふーん、じゃお願いするわ。ぱっと雷を落とすとか、ひょいっと物を持って来るとか、ばばーっと炎を出すとか出来たらいいわね」
「結構遠慮のない奴よの、まあそれくらいの方が魔導では大成するじゃろう。まあ、任せよ」
「お願いします、先生!」
(心に余裕のない奴は、コロッと騙されるものよのう)