館の裏庭では、新しく手に入れた使い魔とアンドロマリウスの模擬戦が行われていた。
「ネコ、お前の戦力分析とはだいぶ様子が違うようだな?」
「マスタの魔道があまりにも強すぎて、セーレのこの地での在り様が著しく改変されているのです。仮にも魔界のプリンスが、あんな小太りの禿親父でおまけに愚痴バッカ。
たぶん、双子の魔力体が融合されてあのような変わり果てた姿に、やはり危惧していたとおり、格下を軽視し過ぎる驕りがでましたね。それが負ける可能性の二パーセントでしたが。」
俺の膝で、顔を洗うシャム猫は清々しく宣った。
ソローンは、二人の使い魔の戦闘を真剣に見ていた。
「ソローン、魔力は大丈夫か?」
「マスター心配には及びません、最近魔力の総量が大分増えましたので」
「うぉりゃー」
禿頭で小太りの魔界から来たプリンスが、大蛇を引き千切った。
「こっから、吾輩のターンだ!」
セーレが、どたどたと動いた。剣を振りかぶってアンドロマリウスに襲い掛かる。
アンドロマリウスは、右腕から青い血を流していた。セーレの攻撃を左手の宝剣で防ぐが、押し込まれていく。
「さあ、切り刻んでやるよ。吾輩のプライド傷つけた代償は大きいぞ!昔、戦闘開始前に準備もあるだろうから待ってやってたら、裏切って速攻で攻撃してきた下種野郎には手足の腱を切って身動きもままならぬようにしてから、地獄の業火で三日三晩焼いてやったよ。 お前の方は、まあ一日で勘弁してやるからそう思え。その後で、夜のご奉仕はしてもらうがな。」
「くっ、下種め。見た目通りの禿親父に好きにさせる私だと思うか。私を好きにしていいのはご主人様だけだ!」
アンドロマリウスは、右腕を振りかぶって己の青い血を、セーレの顔に掛けた。 「うわ、痛い、目、目が見えない。痛い、焼ける様だ!」
セーレの隙を突いて、アンドロマリウスは左手の宝剣で逆袈裟に斬って捨てた。
「ぶ、ぶぁかな」
アンドロマリウスは、右腕の大蛇を修復させると今一度セーレの胴体を締め付けた。
「うっ、こんなバカな。序列七十位の魔界のプリンスである吾輩が、七十二位の伯爵風情の剣に倒れるなどあっては、あってはならぬことだ!」
「勝負あったな」
「やはり、私のアンの方が強い」
嬉しそうに微笑むソローンに、少し諭す必要があるのを俺は認めた。
「よし、模擬戦闘、終了。ソローン、二人に講評を述べよ」
「はい、マスター。喜んで!」
ソローンは、微笑みながらアンドロマリウスの元へ駆けて行った。
「模擬戦、終了。まず言っておく。お互い、今回の模擬戦に遺恨は残さないように!」
「はい、ご主人様」
「く、吾輩が訓練の結果に遺恨を残すような女々しい者に見えますか?」
「・・・」
「ええ、まずはアン。格上相手によくやりました。それとよく教えを守り、戦場においては戦いのゴングを待つ必要は無い。会敵、即戦闘の精神を守りました。あと、相手の油断を突いての再反撃、見事でした」
「それに引き換え、セレス、全然ダメでしたよ。訓練と云えども、開始の合図を待っているような温い精神では、この先思いやられます。
あと、自分が有利な時ほど油断禁物、罠はないか。敵の誘いではないかと疑いなさい。
まあ、エロに走るのはモチベーションを保つ上では良いでしょうが、油断禁物ですよ」
「では、最後に非情の剣について、私の後に繰り返しなさい!
鬼に逢おうたらやっつけて、仏に逢ってもやっつける。はい!」
「「鬼に逢たらやっつけて、仏に逢ってもやっつける!」」
「では、繰り返しますが、剣に情けは無いんですからね!」
「「はい」」
「では、各々帰って傷を治しなさい!」
七十二柱しんちゅうの壺が輝くと、二体の魔人は姿を煙に変え吸い込まれていった。
「ソローン、セーレもお前の使い魔なんだから。例え不細工でも嫌うなよ、愚痴ばっかの小太りで禿でもな。解るな?」
「はい、マスター。どんな戦力でもマスターのために使いこなして見せます!」
新たに誓う、ホムンクルスの姿があった。
「うん、ご苦労」