食堂に入ると、既に食卓には様々な料理が並べられていた。
「ソローンよ、さあ、遠慮はいらぬ、好きなだけ食べるが良い」
「はい、マスター」
むぐ、むぐ。はむ、はむ。
ソローンは、幾種類もの大ぶりな骨付き肉を手掴みで食い千切り胃の中に納めていく。
ソローンは、ようやく空腹が満たされたのか、そっと、主の顔を窺う。
「どうだ、気に入った料理はあるか?」
「はい、マスター。どれも美味でしたが、ふわふわ、ねっとりとした触感のデザートが、一番美味しかったです。これは何ですか?」
「ああ、それか。それは、生きた猿の脳味噌だ。イチジクのプディングの台座に乗せているが、本場ではそのまま猿の頭蓋骨に穴を開けて、直接客に供するそうだ。」
「猿の脳味噌ですか。マスター、わたしこれが気に入りました」
ふむ、魔法特性を強めにしたせいか?自然と知性の源を身体が欲するようだな。実に興味深い。
「気に入ったのなら、今後も良く働けば出してやるぞ。少々入手が難しいから、流石に毎日は無理だと思うがな」
「はい、頑張ります。マスター」
あれ?なんだろう、前にもこんなことが有ったような?不思議な感じがする、何故だろう?
「うん?どうした、急に周りを見回したりして」
「いえ、たぶん、何でもありません。マスター」
「そうか、では今日はもう休め。明日も働いてもらうからな、ソローン」
「はい、マスター。お休みなさい」
ソローンは、保育器《インキュベータ》に入ると静かに目を閉じた。
翌朝
『ソローンの造り手』は、保育器の状態が全て正常なのを確認すると、開閉スイッチを押した。
保育器に充填されていた魔力を伴った青い液体が吸収され、扉が開くと、ソローンの目が開いた。
「おはようございます、マスター。今日も1日よろしくお願いします」
ソローンは、優雅にお辞儀した。
夕闇が迫る頃、三つ目の街の清掃が終わった。
まあ、いい頃合いか少し飽きて来たしなぁ。
「ソローン、もう、これくらいにして今日は帰るぞ」
「はい、マスター」
「浄化の風!」
ソローンが、魔術を唱えるとさっきまでドレスにこびり付いていた、赤というよりもどす黒い血や肉片が綺麗に取り除かれ、表面を水が流れるような不思議な光沢が復元された。
よし、これでマスターの手を汚さない。
ホムンクルスの少女、ソローンは己の主人の左手をそっと掴んだ。
「では、館に転移するぞ」
一瞬にして、燃え盛る瓦礫を背にして二人の男女の姿が消えていく。
二人が食堂に移動すると、テーブルには沢山の料理が並んでいた。
「よし、ソローン。今日も頑張ったな。約束どおり猿の脳味噌も用意した。遠慮なく食すが良い」
「ありがとうございます、マスター」
ソローンは、銀のフォークとナイフを使って器用に色々な骨付き肉を平らげていく。そして最後に大好物を幸せそうに味わって食べていった。
「マスター、今日も美味しいね。特にイチジクと桃のプディングに乗った脳味噌が最高でした。ありがとうございます」
「ふふ、すっかり脳味噌に心惹かれおって。まあ、できるだけ、手に入れるようにしてやるから、まあ頑張れよ。じゃあ、そろそろ向こうで休め」
「はい、マスター。おやすみなさい」
しばし、保育器の中で仄かに光る青い液体に浮かぶホムンクルスの少女を眺めやると、黒衣の魔導師は古の呪文を唱えた。
血文字で描かれた魔法陣が、『ソローンの造り手』の面前に展開される。やがてそれは一人の少女が描かれたタロットカードの形に変化した。
タロットカードはひとりでに、『ソローンの造り手』の手に収まった。ふむ、なるほどステータスはこんな感じに偏っているのか。頭でっかちになり過ぎたなあ、剣でも持たせてみるか。魔導の才能には、見るべきものがあるな。
いや、しかし?なぜか、同じようなことをしていたような気がするが、気まぐれに錬金術でホムンクルスを造ったのは今回が初めてのはずだが。
『ソローンの造り手』は、魔導で引き寄せた真っ赤なワインを飲み干すともう一度、ソローンのステータス情報を見た。
タロットカードの表示は、『ソローンの造り手』にしか見えていないが、古代魔導文字でこう記されていた。
名前: ソローン
種族: ホムンクルス
LV: 15
STR(筋力): 10
DEX(器用): 28
VIT(持久): 10
AGI(敏捷): 13
INT(知性): 33
MND(精神): 35
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