己が胴体をいわば人質に取られた形で魔導による契約により、宝物庫内での戦闘に参加しないことを約定させられたホムンクルスの周りには禁手の魔法陣が絡まっていた。これに違背した場合は、自分自身の魔力によって魂を破壊する恐ろしく残忍な絶対の枷となる。
(許せキール、私の身体はマスターに造って頂いたマスターとの大切な絆。失う訳には・・・・・・)
『では、復讐の場は整えてやった。ついでに力も貸そう。出でよ、下僕ども!』
キュルソンが、なにやら偉そうに呪文を唱えるとピッタリと全身を覆う薄い黒の布を纏った人型が五体現れた。一見人間の様にも見えるが頭部に生えた犬の様な耳と尻部から突き出す尻尾が、そう犬人間というのがふさわしいものだった。
キュルソンの横に居た少女、黒いブーツに、赤と黒二色の固そうな革のスカート、金属の胸当て、目と鼻を隠す蝙蝠の形のマスクを装着した少女が叫ぶ。
「私はリーベンス、この世に受けた恨みを晴らす者。戦闘員よ、やっておしまい!」 「ワン!」
リーベンスと名乗った少女が号令すると犬人間、いや犬戦闘員が腰の剣を抜いてキールを囲む。ある程度技を修めた者なら、むしろ囲まれた方が対処はし易い。同士討ちを恐れるあまり、全力で斬り掛かかれる者はほぼ居ないからだ。
だが、犬戦闘員達は違った。剣の間合いを極限まで詰めると必殺の突き、胴薙ぎ、兜割、袈裟懸け、逆袈裟懸けを同時に繰り出した。
キールの喉は突かれて鮮血が飛び散り、胴を境に上半身と下半身が泣き別れ、頭をかち割られ、左鎖骨を裂かれ、右腿を切裂かれた。思わず泣き叫ぶリサ。
「キール!」
当然の結果として返事など返らず、キールの五体は切り刻まれ即死だった・・・・・・ 「毎度、心配掛けて悪いな」
不思議なことに犬戦闘員はそれぞれ彼らの必殺の技で、喉を突かれ、胴を両断され、頭を真っ二つに斬られ、袈裟懸けに斬られ、逆袈裟に斬られ全員逝ってしまった。
「もうキール、ハラハラさせないでよ!」
『やはりな、この世の者では殺せぬか。リーベンス、お前の出番だ心行くまで復讐を楽しめ!』
「はい、キュルソンさん」
リーベンスは、嬉しそうに腰から鞭を引き抜くと目にも留まらぬ速さでキールを打ち据えた。
「うわっ、痛い」
キールの服はあちこち千切れ、破れた隙間から全身に及ぶ切り傷から血が滲み出ていた。
「ええ?何で、あの娘の攻撃だけが効くのよ。キールを誰も傷つけられず、反対に攻撃したものが傷つき斃れていくはずじゃなかったの」
『小娘、騒ぐな。何んの不思議もない、あの者とキールが同じ世界のモノだということだ。異世界から来たキールをこの世界の者が滅ぼすことは出来ぬのが道理、だが同じ世界の者同士なら滅ぼすことが可能になるのもまた道理』
「リーベンスとか言ったな、俺はお前に会ったことも名前を聞いたことすらない。なんで、君に復讐される必要があるんだい?」
キールが苦しそうに血を吐きながら問うた。たぶん、肋骨が折れでもしたのだろう。
「ふん、あんたのことは良く知っているよキール。あんたが、私の母さんを殺したんだよ!」