「そんなことしても、無駄よ。これ以上、しゃべらないから」
「そ、そんなぁ。あ、ああ。か、感じてなんかいないから。は、針治療と同じでしょ、と、東洋の?ツボを刺激して、交感神経に作用させて自己免疫機能を増進させて異物の侵入に対処する・・・」
男たちは、拘束された無抵抗の女性をただ、ただいたぶっていた。己の醜い欲望のはけ口として。生贄にされた気丈な女性は何時終わるともない責め苦に健気にも立ち向かっていた。
収容所の取調室は、本来の目的とは違う使われ方をしていたが、それに異議を唱えるものはここにはいなかった。
抗う声、悲鳴、嗚咽、懇願の声と荒い息、湿った空気、そして時折響く鞭の音がここでの全てだった。
「そうね、居場所不明な彼女の元にたどり着くために・・・ 例えば彼女が身に着けていた物とか無いのかしら?」
「うん? スカーレットの持ち物とか、こっちにある訳無いよ。前に一度スカーレットにこっちに来てもらったことがあった。だが、あの時はネコさんにスカーレットのホムンクルスを造ってもらい、それを媒体として彼女にこちらの経験、感覚を疑似体験してもらったんだよな」
「そうね、あのホムンクルスは寿命を迎えたときに回収してリサイクルしましたね」「もしかして、少しでも残ってないのかな?ホムンクルスの残滓? それとも、材料の方とかでも残ってないのかな?」
「まさかとは思うけど、行ってみましょうか。確認のために、竜さんの部屋に」
「え? まあ、彼女のホムンクルスが最期を迎えたのはたしか俺の部屋だったな。行こう!」
俺たちは、俺の部屋でスカーレットの残滓を探した。だが、掃除の行き届いた部屋にそんなものが残っているはずもない。
「だが、待てよ。ネコさん、カーテンを閉めて部屋を暗くしてくれ。できるだけ、陽の光が部屋に入らないようにしてくれ」
「竜さん、こんなときに夜伽を求められても。まあ、嫌という訳ではなくてスカーレットさんの命が消えても知りませんよ」
「ネコさん、棒読みでボケられても突っ込みにくいですって。いや、向こう流、科学的捜査手法の応用なんで、いきますよ」
俺は、スマートフォンのLEDライトを床に向けて照射しゆっくりと動かした。仄かに青白く光る血だまりの痕が見えた。これだな。
「ここに、ホムンクルスの血痕が残っているよ。たいした量じゃないけど、大丈夫かな、これで足りるかな?」
「そうね、量の多少はそれほどたいした意味がないわ。なるほど、そう言えば血液に紫外線を当てると蛍光反応があるとか雑誌で読んだわね」
「じゃあ、行けるんだな。スカーレットを救いに」
「ええ。あとはあなたの出番よ、ムガット」
「よし。頼むぞ、ムガット」
『ムガット』
俺は、右肩の相棒の返事に信頼を持って力を貸した。
俺は、見知らぬ建物の中にいた。部屋は廊下に面した部分が鉄格子で仕切られていた。中には、ベッドに縛り付けられた女性が寝ていた。ベッドの周りには、ところどころに女性ものだと思われる血がこびりついていた。
「スカーレット、俺だ。竜だ、助けに来たぞ。もう少しの辛抱だ」
「え? 誰、竜? だめ、ここに来ちゃ。は、早く逃げて!」
「ああ、そうするよ。君を連れてね、だから心配することはない。だが。その前に、君をこんな目に合わせて奴らに少しお仕置きをしないとなあ。ムガット!」
急にけたたましいサイレンが鳴り響いた。あたりでは爆発音や建物が倒壊する音が聞こえる。硝煙の匂いに混じって硫黄の匂いまで漂って来た。島の付近で海底火山が噴火でもしたかのようだ。
まあ、じきにこの島は報いを受け引き裂かれて海に沈むだろう。。
「よし。スカーレット、君が来たがっていた世界に今度こそ正式に招待するよ。気にいってくれるといいんだけど」
「え、ええ?」