な、何が起こったの?地面が大揺れ、凄まじい音が辺りを支配する。度重なる拷問という名を借りた隠微な虐待に心も身体も疲れ果てて粗末なベッドで半ば放心状態で寝ていたはず、手足を拘束されたままなので大して疲れが取れることも無く、ただ精気が抜けていくだけ。
なのに、懐かしい声が聞こえた気がした。何度も助けを求め、でも遠く離れた異世界のこととて救いが得られるはずも無い、二度と会えない逢いたい男性の声がした。
「ああ・・・」
彼が助けに来てくれた、込み上げる安堵感と幸福にうまく言葉が出ない。
客室から出た俺は、ネコさんの研究室を訪れた。
「応急手当は済んでいるから、安心して竜さん。今は寝かせて置けばいいわ」
「ああ、スカーレットはぐっすり寝ているよ。今回は助かったよ、正直こんなにうまくいくとは思っていなかった、あれは本当に危ない状況だったな」
「今回もでしょ。ふふっ。まあ、偶然あの収容所付近に海底火山があって偶々噴火したのだから、とっても運がよかったのね。あなた達は・・・」
ネコさんが、意味深な目で俺の右肩を見つめる。そこには俺の専用使い魔であるムガットが乗っかている。
「そうだな。ムガット、良くやってくれたな」
『ムガット』
「私としては、月の石に加えてまさかの地球の溶岩等が手に入って万々歳よ。これで研究が捗るはずよ。だから、むしろ感謝していっるぐらいね。でも、心のケアは竜さんがちゃんとやってね。彼女は限られた寿命のホムンクルスじゃないんだから、責任を取りなさいね!」
「せ、責任って。まあ、巻き込んだのは俺だからな出来るだけのことはするよ」
「どうしても飽きて捨てたくなったら、言ってね。拾ってあげるから、使い道ならいろいろとあるものよ。あ、違ったわね、捨て値で転売してねが正しいのね。予約しておくわ」
「ふう、物騒なので遠慮するよ」
「でも、転売予約は有効よ。あの部屋で成された血の盟約によってね、忘れないで」「わかった、俺が精一杯スカーレットの面倒をみるよ」
(言質は、取れたわね。これで、血の盟約は完成せり、ふふ・・・)
ネコさんの瞳が紅く輝きを増し、右肩のムガットが俺の上着を引っ張ていたが俺は安堵の空気に浸り気付きもしなかった。
「そろそろ、お姫様が目を覚ます頃よ。竜さん行ってあげて」
「ああ、ありがとうネコさん。じゃあ、失礼するよ」
う、うーん。
「ここは?」
「心配しなくてもいい。前に来ただろう、ジョージさんの館だ。助かったんだよ、スカーレット」
「え、竜。あなたが助けてくれたの? あの地獄の中から」
「ああ、すまなかったな。君の窮地に気が付かなくて」
「助けてくれて、ありがとう。でも、私はもう前の私じゃないの、許して。ごめん、一人にしてお願い」
「わかった、また後で来る。大丈夫だ、もう心配ないから。ゆっくり休むといい」
俺は、彼女にあてがわれた客室を後にした。
むせび泣く声が、微かに聞こえた。