そう言えば些細なことだが、帰還途中に地球に接近する小惑星を偶然発見したので船に唯一装備していた兵器を使って粉砕しておいた。天体観測が趣味の人達には、楽しいショーをお届けできたと思う。多分地球の科学者等は突如現れた流星群の正体に頭を悩ませていることだろうが、こっちは帰還を急ぐ身だったので軌道変更など時間の無駄とばかりに吹き飛ばさせてもらった。
「随分早かったわね、竜さん」
白衣を着た美人さんに出迎えてもらえて、俺も戻って来れて嬉しい気分だ。
「やあ、ネコさんお土産はたっぷりあるから安心して」
「ふう、帰って来たにゃ」
『ムガット?』
「・・・」
領主邸の裏庭に宇宙船を直付けして降り立つ、俺を凝視するネコさんの視線が右肩に固定されている。
「そう、たった数日でそこまで隠形が使いこなせるとは。さすが竜さんの造ったホムンクルスは優秀ね」
「ああ、ムガットはかなり優秀だな。俺も助かっているよ、これもネコさんが教導してくれたおかげだよ。ありがとうな、お師匠さまっ」
「妙な気分ね、でも、そうね悪い気はしないわ。ならば、精進しなさいな」
俺たちは、ネコさんの研究室に向かって歩き出した。しばらくすると、下僕一号と帰還後すぐに消えたアンドロマリウスが何事か話し込んでいた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!あなたの周囲におかしな気配が潜んでいるわ。月で黄泉の扉を開いたんじゃないでしょうね?かなりの力を隠し持っているわね、そいつは!」
中庭の陽に映る深緑色の水が流れるような光沢のあるドレスを纏った少女、下僕一号が剣呑な顔でビシっと伸ばした人差し指が俺の右肩、つまりムガットに狙いを定めた。
「お、おい。こいつは、俺の新しい使い魔だ。手荒なことはかんべんな、まだ生まれて間もないひよっ子なんだからよ。そうだな、お前も世話になるかも知れないから、挨拶しな」
『・・・ムガット』
うっ・・・
「下僕一号よ、こいつには結構貸しがあるから。お前から取り立てることになるかもしれないわね、ベルゼブブに連なる者よ」
まあ、そうだよな。俺はもう慣れたけど、突然右肩に小指大のウジ虫が現れたら驚くだろうよ。
「普段は、姿を消しているからあまり気にしないでやってくれ。俺の専用使い魔にして初のホムンクルスの作品なんだからな」
「な、何よ。たった数日で完成させたというの。な、なんて恐ろしい男なの、あんたって」
「そうだったな、今回の旅では力になって貰って助かったよ。あとで、ちゃんと礼はするから、今は急いでいるんでもう行っていいか?」
「そもそも、ホムン・・・まあ、いいわ。その、お礼ってやつ期待しているわよ・・・」
「ああ、じゃあな」
研究室から、スカーレットに連絡を取ろうとしてみたが応答はなかった。
「くそ、だめだな」
「連絡が取れないようね。だとしたら、きっと彼女は相当危険な立場と考えた方がいいわね。動けないほど弱っているのか、誰かに自由を奪われているのか、それとも死んだか?」
「いや、何度もスカーレットの声を聞いているんだ、あれは死んだ者の声じゃない、助けを求める声だった。だからたぶん何者かに捕まっているんだろ、結構無茶なことを頼んだからな」
ネコさんが、なにやら触手の生えた怪しげな装置を操作していたが。
「どうやら、これね」
『敏腕M&Aアドバイザ謎の失踪、核燃料の売買に絡む疑惑の研究員死亡、自殺か? 美人M&Aアドバイザは某国のスパイ? 凄腕M&Aアドバイザの裏の素顔発覚、国家反逆罪で逮捕?!終身刑以上は確実か?!』
センセーショナルな見出しが並ぶネットニュースの数々がネコさんの怪しげな端末に表示される。
「そうね、彼女が収監されている刑務所はここらしいわね。警戒も厳重、まして向こうの世界だわ、それでも彼女を助けるの?」
「ああ、スカーレットを見殺しにはできない。力を貸してくれ、ネコさん」
「ふう、しょうがないわね。幸いあなたは強力な使い魔を手に入れたことだし、何とかなるかも知れないわ。そう、ムガットあなたに奪還の成否が掛かっているのよ」
『・・・ムガット』