さて、今日はどこを探索するか? 黒衣の魔導師『ソローンの造り手』は、水銀を纏わせたブレスレットを起動させながらしばし思案した。
ふむ、西の島にでも出掛けようか。
「ネコ、あれから時空変動は観測されたか?」
「マスタ、いいえ検知されておりません。なお、ソローンの健康状態は良好です。いつでも出撃できます」
ふ、物騒な表現だな。
「ソローン、折角だからアンドロマリウスに『失せモノ』の場所を占わせてみよ。何か役に立つ情報があるやも知れぬ。無ければ、予定通り西の島へ行くぞ」
青いゴスロリ風のドレスを着たホムンクルスの少女は、黙って頷くと首輪に装着した七二柱しんちゅうの壺に魔力を通した。
「おはよう、アン。お仕事よ、早く来なさい!」
七二柱の壺は、黒とも金とも銀とも見て取れる不思議な色の輝きを放つ。そして、白いドレスを纏った魔人が現れた。
「まったく、様式美もへったくれも無いですね。うちのご主人様は、おはようございます。ご機嫌麗しゅう、アンドロマリウスはここに」
「アン、私の偉大なるご主人様、『ソローンの造り手』様が『失せモノ』の在処をお尋ねよ。何かヒントになるような情報をさっさとお寄こしなさい」
アンドロマリウスは、右腕の大蛇を自分の前に投げる。大蛇は彼女の周りを這い回り、大蛇の跡には砂で書いた精緻な魔法陣が形成され、魔力が高まっていく。
「ふむ、西の島に少し強めの魔力の塊がありますね。なにやら重要の物を隠している可能性があります。たぶん、この島が候補としては有力ですね」
「そう、ご苦労さま。じゃ、いっしょに来なさい!」
「マスター、アンも西の島が怪しいと言っております。荷物持ちに連れて行っても良いでしょうか?」
「やはり西か、わかった。ならば、行くか」
『ソローンの造り手』は、軽い気持ちで西の遥か彼方に浮かぶ島に転移した。
どさっ。
転移の瞬間を察知したソローンは、すかさず『ソローンの造り手』の手を握ったため転移先に軟着陸したが、アンドロマリウスは周囲の空間ごと転移に巻き込まれたため三メートル上空から落下する形になり、大蛇の上に落ちることで衝撃をなんとか吸収した。
「もう、御屋形様、いきなり転移しないでくださいよ。こっちにも心の準備が要りますからね。呪文省略とか、様式美をもっと大事にしてくださいませ」
「まあ、それは慣れよ!それよりも、あちらを見よ」
「え、金字塔?」
彼らの前には、巨大な石造りのピラミッドがそびえて居た。
「なるほど、失せモノがあるやも知れぬな。シチュエーション的な意味で」
「マスター、それってフラグでは?」
「なかなか学習が進んでいるようだな、ソローン。ならば、あのピラミッドさっさと壊してしまえ」
「うわ、御屋形様、過激ですね」
「じゃ、行くわよ。アン!」
「え、ええー」
ソローンは、アンドロマリウスの大蛇を掴むと振り回し始めた。三回転ほど勢いを付けるとピラミッドに向けて放り投げた。
どっ、ばーん。大量の石の破片が飛び散った。
ピラミッドの下から三分の一が吹っ飛んでいた。そして、下へ降りる階段が姿を現した。
「では、隠された部屋に入るとするか」
「はい、マスター」
「・・・」