切り札は最後まで取っておくものだと、昔の映画で学んだ。
さてと。
「ネコ、お前には苦労掛けたな。また、お前の力を借りるぜ!」
「ご主人、存分に使ってやってください」
『スカーレット、あんなことに成っちまって。もう一度だけ力を借りるよ』
なんとなく、もう在ないスカーレットが笑ったような気がした・・・・・・
「下僕一号、アンドロマリウス、約定どおり力を借りるぜ」
「しょうがないわね」、「はい」
『ムガット、細かい調整は頼む』
『・・・・・・ ムガット』
頭上に高々と投げ上げた、惑星サイズのサイコロは高速で回転していた。俺は、五大素《クハムサ・オンスル》を呼び出しながら金の劔を召喚し、裂帛《れっぱく》の気合とともに斬った、斬った、斬った・・・・・・
頭の中が妙に冴えてきて時間の感覚が段々とゆっくりになっていく。
俺が操る巨大鎧が水平に右から左へと黄金の劔を薙いだ。
「風の魔人《リャーフ》」
劔を左から斜め右下に逆袈裟懸けで斬る。
「土の魔人《トゥールバ》」
刃を返して右下から正眼へ劔を切り上げる。
「炎の魔人《ショーラ》」
斜め左に劔を斬り降ろす。
「水の魔人《マイヤ》」
左下から逆袈裟に斬る。
「金の魔人《ダハブ》」
黄金の劔の軌跡、五芒星が一つ完成する。
闇《ザラーム》の五大素も呼び出し、斬った、斬った・・・・・・
「闇《ザラーム》風の精《リャーフ》」
「闇《ザラーム》土の精《トゥールバ》」
「闇《ザラーム》炎の精《ショーラ》」
「闇《ザラーム》水の精《マイヤ》」
「闇《ザラーム》金の精《ダハブ》」
黄金の劔の軌跡、今度は闇の五芒星が現れた。
今まで稼いだ巨額の仮想通貨霊子《レイス》の残高が、一万分の一秒にも満たないわずかな時間に日本円換算で千億円の単位で減っていく。まだ、まだだ、まだいける、いくぜ、行くぜぇ!
霊子の残高が尽きそうになる寸前、日本円にして約六十垓円を費やした。仮に一万円札で用意した場合、六掛け十のニ四乗キログラム、大凡地球の質量に相当する凄まじい大金だ。だが、なんとか手持ちの資金でやり遂げることができた。
こうして、惑星サイズのサイコロが十一個とも、六を上にして転がっていた。
「六十六、俺の勝ちだな。エンドロ・ペニー、お前も俺に一度は引き分けることができた上出来だよ、自分に誇っていい成績だったな」
俺は、ここぞとばかりにドヤ顔で富の女神を嬲った。
「ひ、卑怯よ。こんなの如何様《いかさま》よ、指詰めて貰うわよ」
「ど、どこのヤクザだよ。はん、俺はただ指定されたサイコロを振っただけだぜ。お前の眼で見たらどうだ。皆同じものだということくらい、わかるだろ」
「くっ、そんな馬鹿な。だが、確かにこのサイコロは私が用意した物。それが十一個もあるのがおかしい、おかしい筈なのにこの場のルールに抵触しない。こんなことって・・・・・・」
(ふう、なんとか俺のスキル詐欺《スキャム》で乗り越えられたようだな。観客を派手な動きで幻惑させるミスディレクション、今回は派手に黄金の劔を振り回して通常では有り得ない惑星サイズのサイコロをコピーした不正を単なる如何様から、有り得てもおかしくない奇跡、魔導の結果と誤認させた。正直、奴に詐欺が通用するかどうかが今回の勝負の鍵だった。
富の女神と言っても、それは神々に連なる訳じゃない、高度な科学力が一見すると魔導の力を揮《ふる》う様に見えるのと同じことだ・・・・・・)